甲状腺機能亢進症とは?
甲状腺の機能亢進症について、はじめに知っておいていただきたい点は次の3つです。
- 甲状腺ホルモンが多くなる状態には、甲状腺がつくりすぎている場合と、甲状腺がこわれてホルモンがもれ出している場合があります
- この2つは治療の考え方が変わります。もれ出している場合には、原則として甲状腺の働きを抑える薬(抗甲状腺薬)は使いません
- どちらなのかは、血液検査と超音波検査(エコー)、そして経過を組み合わせ、必要に応じてシンチグラフィも用いて見分けます
甲状腺機能亢進症とは
甲状腺は首の前、のど仏のすぐ下にある臓器で、甲状腺ホルモンをつくっています。甲状腺ホルモンは、細胞が働くスピードを調節しています。
このホルモンが多くなりすぎると、体が常に急いで働いているような状態になります。心臓がどきどきする、汗をたくさんかく、手がふるえる、食欲があるのに体重が減る、暑がりになる、といった症状が出ます。
甲状腺ホルモンが多くなった状態は、まとめて甲状腺中毒症(こうじょうせんちゅうどくしょう)と言います。日本内分泌学会の説明では、その原因は「甲状腺がホルモンをつくりすぎている場合」と「甲状腺がこわれて、たくわえられていたホルモンがもれ出ている場合」の2つに大きく分けられ、前者を甲状腺機能亢進症と言います。
ただし、検索や日常の会話では、甲状腺ホルモンが多い状態をまとめて「機能亢進症」と呼ぶこともあります。このページでは、検査で甲状腺ホルモンが高いと言われた方が原因を整理できるよう、厳密な意味での甲状腺機能亢進症だけでなく、もれ出しによる甲状腺中毒症もあわせて扱います。
反対に、甲状腺ホルモンが足りなくなる状態は甲状腺機能低下症にまとめています。
バセドウ病との関係
バセドウ病は、甲状腺機能亢進症の代表的な原因です。ただし、甲状腺機能亢進症=バセドウ病ではありません。
「甲状腺機能亢進症」は、甲状腺がホルモンをつくりすぎている状態を指す言葉です。「バセドウ病」は、その状態を起こす病気の名前のひとつです。健康診断や他の医療機関で「甲状腺ホルモンが高い」「甲状腺機能亢進の疑い」と言われた段階では、実際につくりすぎているのか、炎症によってホルモンがもれ出しているのかを、これから調べる、ということがあります。
バセドウ病そのものについては、バセドウ病とはのページで詳しく説明しています。
どんな症状が出るか
甲状腺ホルモンが多いときには、上に挙げた症状のほかに、次のようなことで気づかれる方もいます。
- イライラする、落ち着かない、寝つきが悪い
- 体がだるい、疲れやすい
- 便がゆるくなる
- 生理の量が減る
- 首の前がふくらんでいる
これらの症状は、原因となる病気が違っていてもよく似ています。症状だけで病気を見分けることはできません。また、更年期の症状や自律神経の乱れ、こころの不調とも重なるため、甲状腺の病気だと気づかれないまま経過することもあります。
だるさ・疲れやすさが続いている場合の考え方は、だるい・疲れやすいのは甲状腺?でまとめています。
「つくりすぎ」と「もれ出し」で治療の考え方が変わります
血液検査で甲状腺ホルモンが高いという結果は同じでも、その主な仕組みは「つくりすぎ」と「もれ出し」に大きく分けられます。このほか、甲状腺ホルモンの薬を必要以上に飲んでいる場合などによって高くなることもあります。
- つくりすぎ(甲状腺機能亢進症)……甲状腺が、必要以上に甲状腺ホルモンをつくり続けている状態です。バセドウ病、プランマー病などがこれにあたります
- もれ出し(破壊性甲状腺炎)……甲状腺に炎症が起きて、たくわえられていたホルモンが血液中にもれ出ている状態です。無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎がこれにあたります
この2つでは、治療の考え方が変わります。つくりすぎの場合も、原因と程度によって治療は異なります。バセドウ病では甲状腺の働きを抑える薬(抗甲状腺薬)が治療の中心です。プランマー病では、原因となるしこりに対する治療が中心になります。
一方、もれ出しの場合は、甲状腺ホルモンが高くなる原因が「つくりすぎ」ではありません。甲状腺が新しくホルモンをつくっているわけではなく、たくわえられていた分が出きれば落ち着いていきます。そのため、原則として抗甲状腺薬は使わず、症状や炎症に応じた治療を行いながら経過をみます。回復の途中で、一時的に甲状腺ホルモンが足りない時期を経ることがあります。
治療を始める前に、どちらなのかを見分ける必要があるのはこのためです。
なお、すでに甲状腺の薬を飲んでいる方については、この見分けを主治医が経過とあわせて判断しています。自己判断で薬を減らしたり中止したりせず、気になる点は処方を受けている医療機関にご相談ください。
甲状腺ホルモンが多くなる主な病気
日本内分泌学会の分類をもとに、このページで扱う主な原因を整理すると、次のようになります。
甲状腺がホルモンをつくりすぎている場合(甲状腺機能亢進症)
- バセドウ病……免疫の異常によってつくられた抗体が甲状腺全体を刺激し、甲状腺ホルモンをつくりすぎる病気です。20〜40代の女性に多くみられますが、男性や高齢の方にも起こります。甲状腺ホルモンが多くなる原因として代表的なものです。→ バセドウ病とは
- プランマー病(機能性甲状腺結節)……甲状腺にできたしこり(結節)が、脳からの指示とは関係なく甲状腺ホルモンをつくる病気です。日本ではまれですが、結節の多くは良性です。→ プランマー病とは
- 妊娠初期の一過性のもの……妊娠初期には、胎盤から出るホルモンに甲状腺を刺激する働きがあるため、一時的に甲状腺ホルモンが多くなることがあります。→ 妊娠と甲状腺の病気
甲状腺がこわれてホルモンがもれ出ている場合(破壊性甲状腺炎)
- 無痛性甲状腺炎(むつうせいこうじょうせんえん)……たくわえられていたホルモンが一時的に血液中へもれ出る状態です。名前のとおり痛みはありません。多くは自然に回復に向かいますが、正常になったあと、しばらくして甲状腺ホルモンが下がる時期を経る方もいます。少数の方では、そのまま甲状腺ホルモンが足りない状態が続きます。出産後をきっかけに起こる方もいます。→ 無痛性甲状腺炎とは
- 亜急性甲状腺炎(あきゅうせいこうじょうせんえん)……同じく一時的にホルモンがもれ出る病気ですが、こちらは首の前が痛みます。熱が出ることも多く、痛みが右から左へというように移動することもあります。こちらも回復期に甲状腺ホルモンが下がる時期を経ることが多く、少数の方ではそのまま足りない状態が続きます。→ 亜急性甲状腺炎とは
そのほか
- 甲状腺ホルモンの薬を必要以上に飲んでいる場合にも、血液中の甲状腺ホルモンは多くなります。日本内分泌学会は、輸入品のやせ薬などに甲状腺ホルモン薬が混入していて、知らずに摂取していた例があることにも触れています
原因はどのように調べるか
原因を調べるため、症状や状況に応じて、次の検査を組み合わせます。
1. 血液検査でホルモンの状態を確かめる
まず、TSH(甲状腺刺激ホルモン)とFT4・FT3(甲状腺ホルモン)を測り、血液中の甲状腺ホルモンが多い状態かどうかと、その程度を確かめます。TSHは甲状腺ホルモンそのものではなく、FT4・FT3との組み合わせで判断します。当院では甲状腺の血液検査を院内で行っており、採血後約1時間で結果をご説明します。
検査結果の基準となる範囲は、検査を行った施設によって少し異なります。ご自身の結果票に書かれている基準範囲と照らしてご覧ください。
首の前の痛みや発熱がある場合は、CRPなどの炎症反応もあわせて確認します。
2. 抗体を調べ、バセドウ病を考える手がかりにする
バセドウ病では、甲状腺を刺激する抗体であるTRAbまたはTSAbが陽性になることが多く、診断の重要な手がかりになります。「甲状腺疾患診断ガイドライン2024」では、バセドウ病の検査所見として「TRAb陽性、またはTSAb陽性」が挙げられています。
もれ出しによる甲状腺炎では通常この抗体は陰性ですが、陽性になる例もあります。同ガイドラインには、無痛性甲状腺炎でも抗体が弱く陽性を示すことがある、と記載されています。抗体だけで決めず、甲状腺ホルモンの値、超音波検査の所見、経過とあわせて判断します。
TRAbの見方はTRAbとはで、抗体が陰性だったときの考え方は抗体が陰性でも甲状腺の病気のことがありますで説明しています。
3. 超音波検査(エコー)で甲状腺の形をみる
超音波検査(エコー)は、甲状腺の大きさ、しこりの有無、内部の変化など、形を確認する必要がある場合に行います。痛みはなく、所要時間は約15分です。
バセドウ病では甲状腺全体の血流が増えていることが多く、もれ出しの場合は炎症のある部分の見え方が変わります。亜急性甲状腺炎では、痛む場所に一致して見え方が変わることがあります。しこりがある場合は、そのしこりがホルモンをつくっている可能性を考えます。
しこりが見つかったときの考え方は、甲状腺結節(しこり)とはでまとめています。
検査の受け方と、エコーで分かること・分からないことは甲状腺の超音波検査(エコー)で見ているものでまとめています。
4. 必要に応じてシンチグラフィで甲状腺の働き方を調べる
ここまでの検査を組み合わせても区別が難しい場合や、しこりがホルモンをつくっているかを確かめる必要がある場合には、放射性ヨウ素またはテクネチウムを用いた甲状腺シンチグラフィという、甲状腺のどの部分がどれだけ活発に働いているかを調べる検査を行うことがあります。つくりすぎでは取り込みが保たれるか増えており、もれ出しでは低くなるため、区別の手がかりになります。
当院ではこの検査と、細胞診・アイソトープ治療・手術は行っておりません。必要と判断される場合は、甲状腺疾患の専門病院である隈病院をご紹介しています。
妊娠中・授乳中の方、妊娠の可能性がある方は、シンチグラフィの適否や検査の時期が変わります。該当する方は、検査の前に必ず医療機関へお伝えください。
なお、経過をみることも診断の一部です。もれ出しによる甲状腺炎は、多くが数か月のうちに落ち着いていきます。時間の経過そのものが、区別の材料になります。
健康診断で甲状腺の数値を指摘された方へ
健康診断で「甲状腺の数値が高い」と言われても、TSHが高いのか、FT4・FT3が高いのかで意味が異なります。症状がまったくない方も少なくありません。結果票に書かれている項目名・数値・基準範囲を確認し、必要に応じて再検査や原因の評価を行います。
健診で指摘されたときの進め方は、健診でTSHの異常を指摘された方へでまとめています。
受診の目安
次のような場合は、当院を含め、甲状腺を診療している医療機関へご相談ください。
- 健康診断や人間ドックで、甲状腺の数値について指摘された
- 他の医療機関で「甲状腺の数値が高い」と言われ、原因はこれから調べると説明されている
- 動悸・汗・手のふるえ・体重減少といった症状がいくつも重なって続いている
- 首の前がふくらんでいる、しこりにさわれる
- 首の前に痛みがあり、熱も出ている
- 妊娠を考えている、または妊娠中に甲状腺の数値を指摘された
「バセドウ病治療ガイドライン2019」では、甲状腺クリーゼは、コントロールされていない甲状腺中毒症が何らかの誘因で悪化し、意識障害・発熱・心不全などをきたす病態とされています。高熱に加えて、意識がもうろうとする、息苦しい、動悸が非常に強いといった症状が重なる場合は、通常の診療時間を待たずに医療機関へご相談ください。
どの科を受診すればよいか迷う場合は、甲状腺の不調は何科?のページもご覧ください。
当院は完全予約制です。ご予約はお電話(0798-66-2233)で承っています。初診の流れとお持ちいただくものは、受診案内をご覧ください。
よくあるご質問
甲状腺機能亢進症とバセドウ病は同じ病気ですか
同じではありません。甲状腺機能亢進症は、甲状腺がホルモンをつくりすぎている状態です。バセドウ病はその代表的な原因のひとつで、ほかにプランマー病や妊娠初期の一過性のものがあります。無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎でも血液中の甲状腺ホルモンは高くなりますが、こちらは炎症による「もれ出し」です。どちらも甲状腺中毒症ですが、甲状腺がホルモンをつくりすぎているわけではないため、甲状腺機能亢進症にはあたりません。
甲状腺ホルモンが高いと言われましたが、すぐに薬を飲むことになりますか
原因となっている病気によって治療の方法が異なります。甲状腺がホルモンをつくりすぎている場合は、バセドウ病では甲状腺の働きを抑える薬を使い、プランマー病ではしこりに対する治療が中心になります。一方、無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎のように、炎症でホルモンがもれ出ている場合は、原則として抗甲状腺薬は使いません。亜急性甲状腺炎では、痛みや炎症の程度に応じて、痛み止めやステロイドを使うことがあります。まず原因を確かめることになります。
症状がまったくないのですが、それでも調べる必要はありますか
甲状腺ホルモンの異常は、はっきりした症状が出ないまま健康診断で見つかることも少なくありません。数値の異常の程度と原因によってその後の考え方が変わりますので、指摘された場合は一度ご相談ください。
一度治れば、もう心配しなくてよいですか
病気によって異なります。無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎では、回復の途中で一時的に甲状腺ホルモンが足りない時期を経ることがあり、少数の方ではそのまま足りない状態が続きます。無痛性甲状腺炎は、出産後などに繰り返すことがあります。バセドウ病やプランマー病では、治療によってホルモンが保たれていれば通常の生活を送れますが、治療法と経過に応じた確認が必要です。
出典
- 甲状腺中毒症.一般社団法人日本内分泌学会「一般の皆様へ」
- 甲状腺疾患診断ガイドライン2024.一般社団法人日本甲状腺学会(バセドウ病・無痛性甲状腺炎・亜急性甲状腺炎の各診断ガイドライン)
- 日本甲状腺学会「バセドウ病治療ガイドライン2019」(南江堂)
