甲状腺機能低下症とは?
甲状腺機能低下症について、はじめに知っておいていただきたい点は次の3つです。
- 甲状腺ホルモンが足りなくなり、体のはたらきがゆっくりになる状態のことです。原因となる病気の名前ではなく、甲状腺ホルモンが不足している状態の名前です
- 最も多い原因は橋本病ですが、橋本病と診断された方が全員この状態になるわけではありません
- 一時的なものと、続くものがあります。原因によって、薬を終えられるのか、続けるのかが変わります
甲状腺機能低下症とは
甲状腺機能低下症は、日本甲状腺学会の診断ガイドラインで「甲状腺ホルモンの産生と分泌が低下し、血中甲状腺ホルモン濃度が減少する病態」と定義されています。
甲状腺ホルモンは、体のさまざまなはたらきの速さを決めています。足りなくなると、全身の動きがゆっくりになります。体がだるい、寒がりになる、体重が増える、便秘がちになる、といった変化が起こるのはそのためです。
「甲状腺機能低下症」は、原因となる病気の名前ではなく、甲状腺ホルモンが不足している状態の名前です。血液検査で「甲状腺の働きが低い」と分かった段階では、なぜ低くなっているのかはまだ決まっていません。このページは、その原因を整理していただくためのものです。
同じガイドラインは、甲状腺そのものが原因のものを原発性甲状腺機能低下症、視床下部や下垂体が原因のものを中枢性甲状腺機能低下症と区別しています。多くは原発性ですが、この違いは調べ方に関わります。
なお、甲状腺ホルモンが多くなる状態は甲状腺中毒症と言い、甲状腺がつくりすぎている場合と、甲状腺がこわれてホルモンがもれ出している場合に分かれます。くわしくは甲状腺機能亢進症のページで説明しています。このページで扱うのは、その反対に甲状腺ホルモンが足りない側です。
橋本病との関係
「甲状腺機能低下症」と「橋本病」は、指しているものが違います。甲状腺機能低下症は状態の名前で、橋本病はその状態を起こす病気の名前のひとつです。
この2つの関係は、診断ガイドラインの次の2つの記述に表れています。
- 橋本病は「原発性甲状腺機能低下症の原因疾患として最も多い」
- ただし「慢性甲状腺炎(橋本病)のうち、甲状腺機能低下症となるのは約1割である」
つまり、甲状腺の働きが低いと分かったときは、これまでの治療歴や経過を確認し、代表的な原因である橋本病を含めて調べます。一方で、橋本病と言われたからといって、甲状腺ホルモン剤が必要になるとは限りません。多くの方は甲状腺の働きが保たれたまま経過します。
橋本病そのものについては橋本病(慢性甲状腺炎)のページで、診断・治療・甲状腺ホルモン剤の使い方までくわしく説明しています。
どんな症状が出るか
診断ガイドラインは、臨床所見として「無気力、易疲労感、眼瞼浮腫、寒がり、体重増加、動作緩慢、嗜眠、記憶力低下、便秘、嗄声(させい)」を挙げています。日常の言葉に置き換えると、次のような変化です。
- 体がだるい、やる気が出ない、疲れやすい
- 寒がりになる
- まぶたがむくむ、顔がむくむ
- 体重が増える
- 動作がゆっくりになる、眠気が続く
- もの忘れが増えたように感じる
- 便秘がちになる
- 声がかすれる、低くなる
いずれも、この病気に特有というわけではありません。疲れ、加齢、更年期に伴う変化、貧血、睡眠の問題などでも同じような症状が起こります。症状だけで判断することはできず、血液検査で確かめる必要があります。だるさが続いていて気になる方はだるい・疲れやすいのは甲状腺?もご覧ください。
もう一つ、症状ではなく検査値から見つかる道すじがあります。診断ガイドラインには「コレステロール高値、クレアチンキナーゼ高値を示すことが多い」と記されています。健康診断でコレステロールの高さを指摘され、その原因を調べる過程で甲状腺の働きの低下が見つかる、という道すじです。
一時的なものと、続くものがあります
これがこのページで最もお伝えしたい点です。甲状腺の働きが低いと言われると、多くの方が「一生薬を飲むことになるのか」と考えられます。しかし甲状腺機能低下症には、時間がたてば回復する一時的なものがあります。
診断ガイドラインにも「ヨウ素摂取過多や出産後などの場合は一過性甲状腺機能低下症の可能性が高い」と記されています。
一時的なことが多いもの
- 甲状腺の炎症のあと。無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎は、甲状腺がこわれてホルモンがもれ出す病気(破壊性甲状腺炎)です。もれ出す時期のあとに、こわれた甲状腺が回復するまでの間、ホルモンが足りない時期が来ます。多くはそのまま元に戻ります
- 出産のあと。出産後に起こる無痛性甲状腺炎(産後甲状腺炎)の経過で、甲状腺ホルモンが一時的に足りなくなる場合があります。同じページの「出産のあとに起こったとき(産後甲状腺炎)」で説明しています
- ヨウ素の摂りすぎ。昆布などを続けて多くとった場合に起こることがあります。橋本病のページにくわしく書いています
ただし、甲状腺炎のあとや出産後でも、少数の方では甲状腺機能低下が続きます。診断ガイドラインも、無痛性甲状腺炎・亜急性甲状腺炎について、回復期に甲状腺機能低下症になることが多く、少数は永続性の甲状腺機能低下症になるとしています。そのため、症状が落ち着いたあとも、血液検査で甲状腺の働きが戻ったことを確認します。
続くことが多いもの
- 橋本病などにより、甲状腺そのものの働きが持続的に低下した場合
- 甲状腺をすべて摘出したあと
- アイソトープ治療などのあとに、永続的な甲状腺機能低下症となった場合
ただし、橋本病が背景にある方でも、無痛性甲状腺炎やヨウ素の摂りすぎが重なって、一時的に甲状腺の働きが低下する場合があります。また、甲状腺の一部を残す手術やアイソトープ治療のあとに薬が必要になるかどうかは、残っている甲状腺の働きによって異なります。
一時的なものか、続くものかは、はじめの一度の検査だけでは決まりません。炎症のあと、出産後、ヨウ素の摂りすぎなどでは、時間をおいて測り直し、値の動きを確認します。
ただし、いま治療が必要かどうかと、薬を将来まで続けるかどうかは別の判断です。その時点の甲状腺ホルモンの状態や症状によっては、経過を確認しながら甲状腺ホルモン剤による補充を始める場合があります。
甲状腺ホルモンが足りなくなる主な原因
診断ガイドラインと日本内分泌学会の記載にもとづいて整理すると、次のようになります。
- 橋本病(慢性甲状腺炎)……最も多い原因です
- 甲状腺の炎症のあと……無痛性甲状腺炎・亜急性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)の回復期
- 出産のあと……産後に起こる無痛性甲状腺炎(産後甲状腺炎)の経過で起こります
- ヨウ素の摂りすぎ
- 甲状腺の治療のあと……日本内分泌学会は、甲状腺の手術のあと、放射性ヨード治療(アイソトープ治療)のあと、頭や首への放射線治療のあと、抗甲状腺薬による治療などの医学的な治療のあとを挙げています
- 甲状腺の働きを抑える抗体……ガイドラインには「阻害型抗TSH受容体抗体により本症が発生することがある」と記されています
- 視床下部や下垂体が原因の場合(中枢性)……甲状腺そのものではなく、甲状腺に指令を出す側に原因があるものを言います
- 生まれつきのもの(先天性)
このように原因はいくつもあり、それぞれで経過も対応も変わります。だからこそ、原因を確かめることに意味があります。
原因はどのように調べるか
1. 甲状腺の働きを見る血液検査
甲状腺刺激ホルモン(TSH)と甲状腺ホルモン(FT4)を測ります。TSHは脳の下垂体から出て、甲状腺に「ホルモンをつくりなさい」と指令を出しています。甲状腺の働きが低いと、指令は強まります。そのため原発性甲状腺機能低下症では、診断ガイドラインが示すとおりFT4が低く、TSHが高いという組み合わせになります。
ここに例外があります。中枢性甲状腺機能低下症では、指令を出す側に原因があるため、FT4が低い一方で、TSHが低いか基準の範囲内という、原発性とは異なる組み合わせになる場合があります。ただし、この組み合わせだけで中枢性と決まるわけではありません。診断ガイドラインは、甲状腺炎の回復期、重い全身疾患、TSHを低下させる薬の影響などを除いたうえで判断するとしており、「下垂体ホルモン分泌刺激試験や画像検査が必要であり、専門医への紹介が望ましい」としています。TSHとFT4を組み合わせて見るのは、この区別のためでもあります。
2. 結果や経過に応じて、原因を調べる
橋本病が考えられる場合は、その手がかりとして抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)・抗サイログロブリン抗体(TgAb)を調べます。ガイドラインには「慢性甲状腺炎(橋本病)が原因の場合、TPOAbまたはTgAb陽性となる」と記されています。ただし、陰性でも橋本病を完全に否定できるとは限りません。ほかに考えられる原因、診察所見、これまでの経過とあわせて判断します。
あわせて、服用しているお薬、これまでに受けた甲状腺の治療、出産後かどうか、ヨウ素を含む食品や製品の摂り方も確認します。
3. 必要に応じて超音波検査(エコー)を行う
首の腫れやしこりがある場合や、甲状腺の大きさ・内部の状態を確認する必要がある場合に行います。橋本病では内部が通常より黒っぽく、まだらに見えることがあります。
4. 時間をおいて確かめる
一時的なものかどうかは、経過を見なければ分かりません。とくに炎症のあとや出産後は、値が動いている途中の一点だけを見ても判断できません。期間をあけて測り直します。
それぞれの検査で何を調べているのかは甲状腺の検査案内にまとめています。
当院では甲状腺ホルモンと甲状腺自己抗体を院内で測定しており、採血後約1時間で結果をご説明します。甲状腺の形を確認する必要がある場合は、超音波検査も行います。さらに詳しい検査が必要と判断される場合は、甲状腺疾患の専門病院である隈病院をご紹介しています。中枢性甲状腺機能低下症が疑われ、下垂体ホルモンの詳しい検査や画像検査が必要と判断される場合は、下垂体の精査に対応する医療機関へご紹介します。
健康診断で甲状腺の数値を指摘された方へ
健康診断でTSHの値を指摘されて受診される方が多くおられます。TSHが高く、FT4は基準の範囲内という組み合わせを潜在性甲状腺機能低下症といいます。ただし、TSHは一時的に変動することもあるため、時間をおいて再検査し、その状態が続いているかを確認したうえで、その後の対応を判断します。この状態では、すべての方がすぐに治療を必要とするわけではありません。
この状態をどう考えるかは、健診でTSHの異常を指摘された方へと橋本病のページでくわしく説明しています。検査値は施設や検査試薬によって少し違うことがありますので、以前の結果があればお持ちください。
治療について
甲状腺ホルモンの不足について治療が必要と判断された場合は、足りない分を甲状腺ホルモン剤で補います。体が本来つくっているものと同じ成分を補う薬で、量が適切に調整されていれば、多くの方は1日1回の内服で普段どおりの生活を送っていただけます。一時的で軽い低下では、薬を使わずに経過を確認する場合もあります。
薬を始めたからといって、必ず一生続くわけではありません。一時的な低下であれば、回復に合わせて量を減らし、終えられることがあります。一方、橋本病などによって甲状腺の働きが持続的に低下している場合や、甲状腺をすべて摘出したあとでは、長期にわたって補充を続けます。葉切除術やアイソトープ治療のあとに薬が必要かどうかは、その後の甲状腺機能によって異なります。どちらにあたるかは、経過を見ながら判断します。
甲状腺ホルモン剤の飲み方や、鉄剤・カルシウム剤・一部の胃薬との飲み合わせについては橋本病のページにまとめています。
すでにお薬が始まっている方は、自己判断で量を変えたり中止したりせず、処方を受けている医療機関にご相談ください。
受診の目安
次のような場合は、一度ご相談ください。
- だるさ、寒がり、むくみ、体重増加などが続いている
- 健康診断でTSHやコレステロールの値を指摘された
- 出産のあと、数か月してから体調の変化が続いている
- 甲状腺の炎症と言われたあと、経過を確認していない
- ご家族に甲状腺の病気の方がいて、症状が気になる
すでに甲状腺ホルモン剤を飲んでおられる方は、次のようなときにご相談ください。ほかの医療機関で新しくお薬が始まったとき、妊娠が分かったとき・妊娠を考え始めたとき、そして動悸や汗など、量が多いときに出る症状が気になるときです。
相談先としては、内分泌内科・甲状腺内科が主な窓口になります。お近くにない場合は、一般内科でも血液検査による初期の評価を受けられることがあります。診療科の選び方は甲状腺の不調は何科?にまとめています。受付時間や持ち物などは受診案内をご覧ください。
よくあるご質問
薬は一生飲むことになりますか
原因によります。甲状腺の炎症のあとや出産後の一時的な低下であれば、回復に合わせて減らし、終えられることがあります。一方、甲状腺そのものの働きが持続的に低下している場合や、甲状腺をすべて摘出したあとでは、長期にわたって服用します。まずは原因と経過を確かめることが先になります。
橋本病と言われましたが、必ず甲状腺機能低下症になりますか
なりません。診断ガイドラインでは、橋本病のうち甲状腺機能低下症になるのは約1割とされています。多くの方は甲状腺の働きが保たれたまま経過されます。
薬を飲めば症状はよくなりますか
甲状腺ホルモンの不足による症状は、値が整うにつれて改善していくことが多くあります。ただし、だるさやむくみは甲状腺以外の原因でも起こりますので、値が整っても症状が残る場合には、ほかの原因もあわせて考えます。
健診でコレステロールが高いと言われました。関係がありますか
関係することがあります。診断ガイドラインには、甲状腺機能低下症ではコレステロール高値を示すことが多いと記されています。甲状腺機能低下症がコレステロール高値に関係している場合は、甲状腺の働きを整えることで改善することがあります。ただし、コレステロールの高さには食事、体質、ほかの病気なども関わるため、甲状腺の働きが正常になっても高値が続く場合があります。
妊娠を考えています。影響はありますか
妊娠中は甲状腺の見方が変わり、必要な甲状腺ホルモン剤の量も変わります。妊娠と甲状腺の病気のページをご覧ください。
海藻やヨウ素のサプリメントは控えたほうがよいですか
ヨウ素を摂りすぎると、一時的に甲状腺の働きが低下することがあります。ヨウ素は昆布・わかめ・ひじき・のりなどの海藻類のほか、うがい薬やのどスプレー、サプリメント、検査に用いる造影剤にも含まれています。一方で、甲状腺の病気があるという理由だけで、海藻類をすべて控える必要はありません。普段の食事や、昆布だし・昆布加工品、サプリメント、うがい薬の使用状況をうかがったうえで判断しますので、受診の際にお知らせください。くわしくは橋本病のページにまとめています。
出典
- 甲状腺疾患診断ガイドライン2024.一般社団法人日本甲状腺学会(甲状腺機能低下症の診断ガイドライン、慢性甲状腺炎(橋本病)の診断ガイドライン)
- 甲状腺機能低下症.一般社団法人日本内分泌学会「一般の皆様へ」
