亜急性甲状腺炎について
亜急性甲状腺炎について、はじめに知っておいていただきたい点は次の3つです。
- 甲状腺に炎症が起きて首の前が痛くなる病気です。風邪のようなウイルス感染との関連が指摘されています
- 炎症で甲状腺がこわれ、たくわえられていた甲状腺ホルモンが一時的に血液中へもれ出します。そのため動悸などが出ます
- 多くは数か月で自然に回復します。症状が強いときには、ステロイドがよく効きます
亜急性甲状腺炎とは
亜急性甲状腺炎は、日本甲状腺学会の診断ガイドラインで「有痛性の破壊性甲状腺炎による甲状腺中毒症」と定義されています。かみくだくと、痛みをともなって甲状腺がこわれ、その結果として甲状腺ホルモンが多くなる状態ということです。
「破壊性甲状腺炎」とは、甲状腺が新しくホルモンをつくりすぎているのではなく、甲状腺がこわれて、中にたくわえられていたホルモンがもれ出している状態を指します。この違いは治療の考え方に直結します。くわしくは甲状腺機能亢進症のページで説明しています。
原因はまだはっきりしていませんが、ウイルス感染との関連が示唆されています。また同じガイドラインには、白血球の型(HLA-B35)と強く関連することも記されています。発症のしやすさには体質が関係すると考えられています。
どんな痛み方をするのか
この病気のいちばんの特徴は痛みです。首の前、のど仏の下あたりが痛みます。
- おさえると痛みます。ご自分で触れても痛みを感じます
- ものを飲み込むときに痛みます
- 痛みが耳やあごのほうへ響くことがあります
- 痛む場所が移ることがあります。右側が痛んでいたのが、しばらくすると左側に移る、という動き方をします
発熱をともなうことも多く、ガイドラインには「上気道感染症状の前駆症状をしばしば伴い、高熱をみることも稀ではない」と記されています。風邪のような症状が先にあって、そのあとに首の痛みと熱が出てくる、という順序をたどる方がおられます。38℃を超える熱が出ることもあります。
首の痛みや発熱は、のどの炎症や首のリンパ節の病気でもみられます。そのため症状だけでは区別が難しく、甲状腺の病気と分かるまでに時間がかかる場合があります。風邪が治ったあとに首の前の痛みと熱が続くときは、のどではなく甲状腺が原因になっていることがあります。首の前を指でおさえて痛むかどうかは、ご自分でも確かめられる手がかりです。どの科を受診すればよいか迷われたときは甲状腺の不調は何科?もご覧ください。
なお、痛みをともなわずに同じように甲状腺がこわれる病気もあります。無痛性甲状腺炎と言います。こちらは出産後などに起こります。
甲状腺ホルモンが一時的に増えるのはなぜか
炎症で甲状腺の組織がこわれると、そこにたくわえられていた甲状腺ホルモンが血液中にもれ出します。つくりすぎているわけではないのに、血液検査では甲状腺ホルモンが高い値になります。
このとき、心臓がどきどきする、汗をたくさんかく、手がふるえる、体重が減る、暑がりになるといった症状が出ます。もれ出せる量には限りがありますので、この状態は長くは続きません。
血液検査の結果だけを見るとバセドウ病と似た値になりますが、治療の考え方はまったく違います。もれ出しによるものには、原則として甲状腺の働きを抑える薬(抗甲状腺薬)は使いません。どのように見分けるかは甲状腺機能亢進症のページにまとめています。
首の痛みは、ほかの病気でも起こります
首の前が痛いからといって、必ず亜急性甲状腺炎とは限りません。日本甲状腺学会の診断ガイドラインは、この病気と診断する前に区別しておくべき状態をいくつか挙げています。
- 橋本病(慢性甲状腺炎)が急に悪くなったとき。もともと橋本病のある方に、痛みと腫れが出ることがあります
- 甲状腺にできた嚢胞(のうほう)という袋の中に出血したとき。急に腫れて痛みます。甲状腺結節(しこり)のページもご覧ください
- 細菌の感染で甲状腺が化膿したとき
- このほか、まれではありますが、別の病気が原因のこともあります
いずれも痛みという入口は同じでも、治療がまったく異なります。ですから、痛みの経過をうかがったうえで、血液検査と超音波検査で確かめることが必要になります。
どのように診断するのか
診断は、痛みのある甲状腺の腫れという所見に、次の検査を組み合わせて行います。
1. 炎症の程度を見る血液検査
診断ガイドラインは「赤沈(せきちん)またはCRP高値」を検査所見の一つに挙げています。赤沈は赤血球沈降速度のことで、CRPとならんで体の中の炎症を映す検査です。亜急性甲状腺炎ではこれらが目立って高くなります。ここが、痛みのない無痛性甲状腺炎との大きな違いです。
2. 甲状腺の働きを見る血液検査
甲状腺ホルモン(FT4・FT3)と甲状腺刺激ホルモン(TSH)を調べます。もれ出しの時期には、甲状腺ホルモンが高く、TSHが低い値になります。あわせて、バセドウ病の手がかりになる抗体(TRAb)も調べます。この病気ではTRAbは陰性のことがほとんどですが、ガイドラインには「陽性例が稀にある」とも記されており、抗体の結果だけで決めることはしません。ホルモンが多くなる原因の見分け方は甲状腺機能亢進症のページにまとめています。
3. 超音波検査(エコー)
ガイドラインは「甲状腺超音波検査で疼痛部に一致した低エコー域」を挙げています。痛むところと、画面上で黒っぽく写る範囲が重なるのがこの病気の特徴で、押して痛い場所を確かめながら観察できることが、超音波検査の強みです。
当院では甲状腺ホルモンと甲状腺自己抗体を院内で測定しており、採血後約1時間で結果をご説明します。それぞれの検査で何を調べているのかは甲状腺の検査案内にまとめています。当院では血液検査と超音波検査までを行い、さらに詳しい検査が必要と判断される場合は、甲状腺疾患の専門病院である隈病院をご紹介しています。
治療 ── ステロイドをどのくらい使うのか
痛みや炎症が軽いときには、消炎鎮痛剤(ロキソニンなど)を使って経過をみます。
痛みや熱が強いときにはステロイドを使います。ステロイドはこの病気にとてもよく効き、痛みと発熱は短期間で軽くなります。ただし、どのくらいの量を使うのがよいかは、はっきりと決まっていませんでした。
1993年に発表された海外の方法では、1日40mgから始めて減らしていくことになっていました。しかし院長・窪田純久は、少なくとも日本人ではもっと少ない量で済むという経験から、1日15mgから始めて、2週間ごとに5mgずつ減らし、6週間で終える方法を考えました。そして219人の患者さんでこの方法を検討し、多くの方にこの量で十分であることを示しました。この研究は40mgから始める方法と直接くらべたものではありませんが、米国甲状腺学会(ATA)の2016年の診療ガイドラインは、この方法を「有効であった」として紹介しています。同じガイドラインには、標準的な方法として1日40mgから始めて減らしていく方法も示されています。
- 6週以内に症状が改善してぶり返さなかった方が 113人(51.6%)
- 7〜8週で改善してぶり返さなかった方が 61人(27.9%)
- 途中で量を増やす必要があった方は 7人(3.2%)
この結果は、アメリカ甲状腺学会の学会誌であるThyroid誌に発表されています(論文と院長による解説)。
なお、使う量や期間は、症状の強さや経過をふまえて一人ひとり決めます。ほかの量で治療を受けておられる場合もあります。
ご自身の判断で減らしたり中止したりすることは避けてください。次に述べるように、減らす途中や中止したときにぶり返すことがあるためです。減らし方は症状と炎症の値を見ながら決めていきます。
治療の途中でぶり返すことがあります
ステロイドがよく効く一方で、量を減らしていく途中や、中止したときに、痛みや熱がぶり返すことがあります。日本内分泌学会も「薬を早く減らしたり、急に中止すると、ぶり返してしまうことがある」と説明しています。
院長の研究では、途中でぶり返したり炎症が長引いたりして、回復までに8週を超えた方が約2割おられました。これは「ぶり返した方が2割」という意味ではなく、8週を超えて治療を続けた方を合わせた割合です。珍しいことではありません。
また、別の日本の施設が36人を調べた報告では、ぶり返した方とそうでない方の間に、治療前に調べた炎症の値や甲状腺ホルモンの値の差はみられませんでした。少なくともこの報告で調べた範囲では、治療を始める前の検査値からぶり返しを見分けることはできませんでした。
ぶり返した場合には、減らすペースをゆるめたり、いったん量を戻したりして対応します。ぶり返したこと自体は、治療がうまくいっていないという意味ではありません。
経過 ── 治ったあとに大切なこと
この病気は、多くの場合3か月ほどで自然に回復します。ただし症状が強い時期は日常生活が難しくなりますので、その間はステロイドによる治療を受けていただくほうがよいと考えています。
もう一つ知っておいていただきたいのは、炎症がおさまったあとの経過です。診断ガイドラインには「回復期に甲状腺機能低下症になる例が多く、少数例は永続的低下になる」と記されています。
もれ出す時期が終わると、こわれた甲状腺が回復するまでの間、今度は甲状腺ホルモンが足りない時期が来ます。寒がりになる、体がだるい、眠たい感じが続く、体重が増える、といった症状に変わります。この時期は一時的なことがほとんどで、多くの方はそのまま元に戻ります。甲状腺ホルモンが足りない状態そのものについては甲状腺機能低下症にまとめています。
この時期のだるさや眠気は一時的なことがほとんどですが、長引くときには別の原因が重なっていることもあります。だるい・疲れやすいのは甲状腺?もあわせてご覧ください。
一方、少数ではありますが甲状腺ホルモンが足りない状態が続き、甲状腺ホルモン剤を飲み続けていただく方がおられます。その割合は報告によって幅があり、日本の施設からの報告では3.6%、海外の地域を対象とした報告では15%とされています。対象となった方、治療の方法、追いかけた期間が異なりますので、この2つを単純にくらべることはできません。甲状腺ホルモン剤は不足しているものを補う薬で、量が適切に調整されていれば、多くの方は1日1回の内服で普段どおりの生活を送っていただけます。
ですから、痛みと熱がおさまって「治った」と感じたあとにも、甲状腺ホルモンを測ることが大切です。この時期の変化は自覚しにくく、検査をしなければ分かりません。
治ったあとに、再びかかることはありますか
まれです。そして、もし起こるとしてもずっと先のことが多いと報告されています。
- 日本の専門病院が24年間に受診した3,344人を調べた報告では、再発したのは48人(約1.4%)で、最初の発症から平均14.5年後でした
- 別の専門病院が852人を調べた報告でも、再発は1.6%、間隔は平均13.6年でした
- 海外の地域を対象とした報告では4%で、6〜21年後とされています
日本内分泌学会も「なりやすい体質がありますので10-30年後に再発することもあります」と説明しています。また上記の報告では、2回目の発症は1回目より軽く済んでいました。
この「再発」と、治療の途中の「ぶり返し」は別のことです。治療の途中でぶり返したり、治療が予定より長くかかったりする方は約2割で珍しくありませんが、いったん治ったあとに何年もしてから再びかかる方は100人に1人から4人程度です。混同されやすいところですので、分けて考えてください。
よくあるご質問
仕事や家事は休まなければいけませんか
痛みと熱が強い時期は、体を休めていただくほうがよいと考えています。ステロイドを使うと症状は短期間で軽くなりますので、その後の過ごし方については、お仕事の内容もうかがったうえでご相談します。激しい運動は、症状が落ち着くまで控えていただきます。
痛みはいつまで続きますか
ステロイドを使った場合、痛みと発熱は比較的すみやかに軽くなります。ただし薬を減らしていく期間を含めると、治療全体では6〜8週ほどかかる方が多く、それより長くかかる方もおられます。
ステロイドの副作用が心配です
この病気では、ステロイドは炎症がおさまるまで使い、おさまれば減らして終えます。院長らが検討した方法は、それまで用いられてきた量より少ない量から始めるものです。ただしステロイドには副作用があり、ほかにお持ちの病気や体調によって注意する点が変わります。気になる症状があるときは、ご自身で中止せずにご相談ください。
人にうつりますか
うつりません。ウイルス感染との関連が示唆されていますが、この病気そのものが人から人へうつるものではありません。
甲状腺の薬を一生飲むことになりますか
多くの方は必要ありません。炎症がおさまったあとに甲状腺ホルモンが一時的に足りなくなる時期がありますが、その多くは自然に戻ります。少数の方で補充を続けることがあり、その場合も1日1回の内服です。
もう一度かかることはありますか
まれです。ここで紹介した報告では100人に1人から4人程度で、発症から数年以上たってから起こり、10年以上あとの例も多くみられました。治療の途中でぶり返すことと混同されやすいのですが、別のことです。
出典
- 甲状腺疾患診断ガイドライン2024.一般社団法人日本甲状腺学会(亜急性甲状腺炎(急性期)の診断ガイドライン)
- 亜急性甲状腺炎.一般社団法人日本内分泌学会「一般の皆様へ」
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