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抗体が陰性と言われたら

甲状腺の検査で「抗体は陰性でした」と言われた方に、はじめに知っておいていただきたい点は次の3つです。

  • 甲状腺の自己抗体は、病気の診断や原因を考える重要な手がかりです。ただし、抗体の結果だけで病名や治療の必要性が決まるわけではありません
  • 抗体が陰性でも、甲状腺の病気と診断されることがあります。反対に、抗体が陽性でも病気とは限りません
  • 症状が続いているのに原因がはっきりしない場合は、これまでの検査結果の記録をお持ちのうえ、甲状腺を診療している医療機関にご相談ください

抗体が陰性でも、甲状腺の病気は否定できません

 健診や他の医療機関で甲状腺の検査を受け、「抗体は陰性です」と説明されたあと、症状が続いているのにそのままになっている、という方がいらっしゃいます。

 甲状腺の病気があるかどうかを判断するとき、まずTSH・FT4・FT3で甲状腺の「働き」を確認します。首の腫れ・しこりがある場合や、橋本病などによる甲状腺内部の変化を確認する必要がある場合は、超音波検査(「形」)を組み合わせます。時間とともに値が動く病気では、「経過」も判断材料になります。自己抗体は、これらに加えて原因を見分けるための手がかりとして使う検査です。

 つまり、抗体は診断を構成する材料のひとつであり、陰性であっても、それだけで甲状腺疾患を否定することはできません。

甲状腺の抗体は何を見ている検査か

 本来は細菌やウイルスに向かうはずの免疫のはたらきが、自分の甲状腺に向かってしまったときにつくられるたんぱく質を、自己抗体といいます。甲状腺では主に次の3つを測ります。

 どの抗体を調べるかは、症状と、TSH・FT4・FT3の結果によって決まります。検査そのものの説明は、甲状腺の検査案内でまとめています。

 当院では、これらの甲状腺自己抗体を院内で測定しており、採血後約1時間で結果をご説明します。

橋本病は、抗体が陰性でも診断されることがあります

 橋本病は、自己免疫の異常によって甲状腺に慢性的な炎症が起こる病気です。診断では、甲状腺の働き(TSH・FT4)とあわせて、TPOAb・TgAbという自己抗体を調べます。

 ただし、これらの自己抗体が陰性であっても、甲状腺そのものが原因と考えられ、ほかに原因の見当たらない甲状腺機能低下症であれば、橋本病が疑われます。このとき、超音波検査で甲状腺の内部が通常より黒っぽく、まだらに見えること(エコー低下や不均質)も診断の手がかりになります。

 反対のことも起こります。橋本病でみられる自己抗体は、甲状腺機能が正常な一般の方にも見つかることがあります。抗体を持っているというだけで、全員に甲状腺機能低下症が起こるわけではありません。

 陰性でも病気のことがあり、陽性でも病気とは限らない。抗体の結果だけを取り出して判断できないのは、このためです。橋本病そのものについては橋本病(慢性甲状腺炎)とはでまとめています。

バセドウ病に関連する病態でも、まれに抗体が陰性の報告があります

 バセドウ病では、ほとんどの方でTRAbまたはTSAbが陽性になります。バセドウ病治療ガイドライン2019には、未治療のバセドウ病における第2世代TRAbの陽性率は98%で、第2世代で陰性の場合はバセドウ病がほぼ除外できると考えてよい、と記載されています。診断の重要な手がかりです。「甲状腺疾患診断ガイドライン2024」でも、バセドウ病の検査所見として「TRAb陽性、またはTSAb陽性」が挙げられています。

 ただし、これらの抗体が陰性であっても、甲状腺の働きや超音波検査の所見、経過から、まれに、バセドウ病に関連する病態と判断される例も報告されています。

 当院の院長・窪田純久は、TRAbとTSAbがともに陰性でありながら、外眼筋(目を動かす筋肉)の腫大を伴った症例を報告しています(「外眼筋腫大を呈したTRAb, TSAb陰性のHypothyroid Graves' diseaseの1例」ホルモンと臨床 2002)。これは1例の症例報告であり、頻度や一般的な傾向を示すものではありません。ただし、抗体が陰性であることだけで、バセドウ病に関連するすべての病態を否定できるわけではないことを示す一例です。

 院長の論文は和文の著書・論文に掲載しています。バセドウ病そのものについてはバセドウ病とはをご覧ください。

甲状腺ホルモンが多いのに抗体が陰性のとき

 血液検査で甲状腺ホルモンが多いと分かったとき、次に確かめるのはそれが甲状腺の「つくりすぎ」なのか、「もれ出し」なのかです。この2つは原因も経過も治療も異なります。

  • つくりすぎ… バセドウ病など。甲状腺が必要以上にホルモンをつくっている状態です
  • もれ出し… 無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎など。炎症で壊れた甲状腺の細胞から、蓄えられていたホルモンが血液中にもれ出している状態です

 TRAbやTSAbが陽性であれば、つくりすぎ(バセドウ病)を考える手がかりになります。もれ出しによる甲状腺炎では、通常これらの抗体は陰性です。

 しかし、ここでも例外があります。「甲状腺疾患診断ガイドライン2024」には、無痛性甲状腺炎でも抗体が弱く陽性を示すことがあると記載されています。

 逆の向きの例外もあります。

国内の1つの医療機関で、5種類の測定キットを比べた報告では、無痛性甲状腺炎の方でTPO抗体が陽性だったのは3割前後にとどまりました(サイログロブリン抗体はキットによって4〜8割と幅がありました)。橋本病や、寛解したバセドウ病の経過中に起こる状態でありながら、TPO抗体だけを見ると陰性のことが多いという結果です。

 つまり、抗体が陽性でもバセドウ病とは限らず、陰性でも甲状腺の病気がないとは限りません。抗体だけで決めず、甲状腺ホルモンの値、超音波検査の所見、そして時間をおいた経過とあわせて判断します。甲状腺ホルモンが多い状態の見分け方は、甲状腺機能亢進症とはで詳しくまとめています。

抗体以外に何を見ているのか

 抗体が陰性だったときは、甲状腺の働きと経過を確認し、甲状腺の形を評価する必要がある場合には超音波検査を組み合わせます。

1. 甲状腺の働き(血液検査)

 TSH(甲状腺刺激ホルモン)とFT4・FT3(甲状腺ホルモン)を測り、甲状腺ホルモンが多い状態か、少ない状態かと、その程度を確かめます。TSHは甲状腺ホルモンそのものではないため、FT4・FT3との組み合わせで判断します。

 検査結果の基準となる範囲は、検査を行った施設によって少し異なります。ご自身の結果票に書かれている基準範囲と照らしてご覧ください。検査値が症状や経過と合わないときに考えることは、甲状腺の検査値と症状・経過が合わないときでまとめています。

2. 甲状腺の形(超音波検査・必要な場合)

 超音波検査(エコー)では、甲状腺の大きさ、内部の見え方、しこりの有無、血流の状態などを確認します。痛みはなく、所要時間は約15分です。橋本病では内部が黒っぽくまだらに見えることがあり、バセドウ病では甲状腺全体の血流が増えていることが多く、もれ出しの場合は炎症のある部分の見え方が変わります。

 橋本病による内部の変化や、甲状腺ホルモンが多い原因の区別など、形の評価が必要な場合には、超音波所見が診断の手がかりになります。検査の内容は甲状腺の超音波検査(エコー)で見ているものでまとめています。

3. 時間をおいた経過

 甲状腺の病気には、時間の経過とともに検査値が動くものがあります。とくにもれ出しによる甲状腺炎は、ホルモンが多い時期から、少ない時期を経て、回復していく経過をたどるものがあります。一度の採血では判断がつかず、期間をおいて測り直してはじめて分かることもあります。

「抗体は陰性でした」と言われたあとに

 抗体が陰性と説明されたあと、次のような状態が続いている場合は、甲状腺を診療している医療機関にご相談ください。

  • だるさ、動悸、汗が増える、体重が減る、手のふるえなど、甲状腺ホルモンが多いときにみられる症状が続いている
  • だるさ、むくみ、寒がり、体重が増える、便秘など、甲状腺ホルモンが少ないときにみられる症状が続いている
  • 健診で甲状腺の数値の異常を指摘されたが、その後の再検査を受けていない
  • 首の前が腫れている、しこりに触れる

 受診の際は、これまでの検査結果の記録をお持ちください。検査値は施設や検査試薬によって少し違うことがあるため、以前の結果と並べて見ることで、数値が動いているのかどうかが分かります。

 どの診療科を受診すればよいかについては甲状腺の不調は何科を受診すればよいか、健診で異常を指摘された方は健診でTSHの異常を指摘された方へをご覧ください。

 当院では、問診と診察のうえで必要な検査を当日に行っています。甲状腺ホルモンと甲状腺自己抗体(TPOAb・TgAb・TRAb)の迅速検査を院内で行っており、採血後約1時間で結果をご説明します。超音波検査も院内で実施しています。

よくあるご質問

Q.抗体が陰性なら、もう甲状腺の検査は必要ありませんか。

 症状が続いている場合や、健診で甲状腺の数値の異常を指摘されている場合は、まずTSH・FT4・FT3で甲状腺の働きを確認します。超音波検査は、首の腫れ・しこりがある場合など、形の評価が必要なときに行います。抗体が陰性であることは、甲状腺の病気がないことを示すものではありません。

Q.抗体が陽性と言われました。必ず病気ということですか。

 いいえ。橋本病でみられる自己抗体は、甲状腺機能が正常な一般の方にも見つかることがあります。治療が必要かどうかは、抗体の高さではなく、TSHとFT4を中心とした甲状腺の働き、症状、年齢、妊娠の予定などから判断します。

Q.いまは陰性でも、あとから陽性になることはありますか。

 あります。抗体の値は、経過の中で陽性になったり陰性になったりする場合があります。ただし、繰り返し測る意味は抗体の種類と病気によって異なります。バセドウ病のTRAbは、治療経過や妊娠時の評価に用いることがあります。一方、橋本病のTPOAb・TgAbは、診断後に繰り返し測るよりも、TSH・FT4で甲状腺の働きを確認することが中心です。

Q.どの抗体を調べるかは、どのように決まりますか。

 症状と、TSH・FT4・FT3の結果によって決まります。TSHが低ければTRAbを、TSHが高ければTPOAb・TgAbを調べる、というのが基本的な考え方です。ただし、首の腫れ、妊娠の予定、これまでの甲状腺の治療などによっても変わります。詳しくは甲状腺の検査案内をご覧ください。

出典

このページの執筆者

窪田純久(くぼたクリニック院長・医学博士/日本甲状腺学会認定甲状腺専門医・評議員)
窪田創大(医師・医学博士/日本甲状腺学会認定甲状腺専門医、日本内分泌学会認定内分泌代謝科専門医・指導医、日本糖尿病学会認定糖尿病専門医)

院長・窪田純久は甲状腺疾患の診療ガイドライン作成委員を務めています。甲状腺の自己抗体(TRAb・TSAb)がいずれも陰性でありながら、外眼筋の腫大を伴った Hypothyroid Graves' disease の1例を報告しています(和文の著書・論文)。

院長は、甲状腺を専門としない医師に向けた専門書『やさしく解説 甲状腺疾患の診断と治療』(南江堂、改訂第2版・2025年)も執筆しています。

  • 執筆した医師の経歴などがある医師紹介はこちら
  • 院長自身による日本語の解説をつけた英文論文18編はこちら

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