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抗体が陽性と言われたら

健康診断や人間ドック、ほかの医療機関で「甲状腺の抗体が陽性」と言われた方に、はじめに知っておいていただきたい点は次の3つです。

  • TPO抗体(TPOAb)とサイログロブリン抗体(TgAb)は、橋本病(慢性甲状腺炎)の手がかりになる検査です。ただし、抗体が陽性というだけで病気が決まるわけではありません
  • 病気かどうか、治療が必要かどうかは、TSH・FT4を中心とした甲状腺の働き、診察所見、症状、経過から判断します。抗体の高さでは決まりません
  • 陽性と言われたら、結果票をお持ちのうえ、甲状腺を診療している医療機関で、甲状腺の働きを一度確認してください。妊娠を希望されている方・妊娠中の方は、その旨もあわせてお伝えください

「抗体が陽性」は、病気が決まったという意味ではありません

 甲状腺の自己抗体は、病気の診断や原因を考える重要な手がかりです。ただし、抗体の結果だけで病名や治療の必要性が決まるわけではありません。病気かどうか、治療が必要かどうかは、TSH・FT4を中心とした甲状腺の働き、診察所見、症状、経過から判断します。甲状腺の腫れや内部の状態を確認する必要がある場合には、超音波検査を行います。

 日本甲状腺学会の「甲状腺疾患診断ガイドライン2024」では、TPO抗体またはサイログロブリン抗体が陽性であることは、橋本病の診断に用いる検査所見のひとつとされています。一方で、甲状腺の働きにも腫れにも異常がなく、抗体だけが陽性の場合は「疑い例」と位置づけられています。健診で抗体だけを測っていてTSH・FT4の結果がない場合は、まず甲状腺の働きを確認するところから始めます。

 実際、橋本病でみられる自己抗体は、甲状腺機能が正常な一般の方にも見つかることがあります。抗体を持っているというだけで、全員に甲状腺機能低下症が起こるわけではありません。反対に、抗体が陰性でも甲状腺の病気のことがあります。陰性と言われた方は抗体が陰性でも甲状腺の病気のことがありますをご覧ください。

TPO抗体とサイログロブリン抗体は、何に対する抗体か

 本来は細菌やウイルスに向かうはずの免疫のはたらきが、自分の甲状腺に向かってしまったときにつくられるたんぱく質を、自己抗体といいます。健診でよく測られる2つは、どちらも甲状腺の中にある成分に対する抗体です。

  • TPO抗体(抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体:TPOAb)… 甲状腺ペルオキシダーゼは、甲状腺ホルモンをつくるときに働く酵素です。この酵素に対する抗体です
  • サイログロブリン抗体(抗サイログロブリン抗体:TgAb)… サイログロブリンは、甲状腺ホルモンの材料を蓄えているたんぱく質です。このたんぱく質に対する抗体です

 向かう相手が違うだけで、意味はどちらも「橋本病の手がかり」です。診断ガイドラインでは、どちらか一方が陽性であれば検査所見を満たすとされており、両方が陽性でなければならないわけではありません。片方だけが陽性だったからといって、結果が中途半端というわけではないのです。

 結果票には抗体の数値(力価)が印字されていますが、検査に使う試薬によって数値も基準範囲も異なります。ご自身の結果は、その結果票に書かれている基準範囲と照らしてご覧ください。

 なお、甲状腺の自己抗体にはもうひとつ、TRAb(TSH受容体抗体)があります。こちらはバセドウ病の手がかりになる抗体で、役割が異なります。TRAbの使い方はTRAbとはで説明しています。どの抗体を調べるかを含めた検査の全体像は、甲状腺の検査案内でまとめています。

抗体が陽性で、甲状腺の働きが正常のとき

 抗体が陽性でも、TSH・FT4が基準範囲内で、症状もない場合があります。その場合、抗体陽性だけを理由に甲状腺ホルモン剤を始める必要は通常ありません。橋本病と診断された方でも、甲状腺機能低下症になるのは約1割で、多くの方は甲状腺の働きが保たれたまま経過します。

 ただし、「治療が要らない」と「何もしなくてよい」は同じではありません。抗体が陽性の方は、陰性の方に比べて、将来、甲状腺の働きが低下してくる可能性が高いことが、海外の長期追跡研究で報告されています。どのくらい先に、どのくらいの方に起こるかは、TSHの値や年齢などによって異なり、ひとりひとりについて決まっているわけではありません。

 そのため、抗体が陽性で働きが正常の方には、定期的な血液検査で甲状腺の働きを確認していくことをおすすめしています。間隔は状態によって変わりますので、受診先でご確認ください。変化があれば、その時点で治療を検討します。定期的に検査を受けることは、「何もしていない」ということではなく、変化を早く見つけるための経過観察です。

 もうひとつ大切な点があります。だるさやむくみなどの症状があっても、TSHとFT4が正常であれば、その症状が甲状腺によるものとは限りません。貧血、睡眠の問題、更年期に伴う変化など、ほかの原因もあわせて確認します。抗体が陽性だからといって、体調の不調をすべて甲状腺に結びつけないことも大切です。

抗体が陽性で、甲状腺の働きに異常があるとき

 抗体が陽性で、TSH・FT4にも異常がある場合は、その組み合わせによって考える病気が変わります。

TSHが高い場合

 甲状腺の働きが低下しているか、低下し始めている状態です。抗体が陽性であれば、原因として橋本病(慢性甲状腺炎)がまず考えられます。FT4も低ければ甲状腺機能低下症として治療を検討し、FT4が正常でTSHだけが高い「潜在性甲状腺機能低下症」であれば、TSHの上昇が続いているか、症状、年齢、妊娠の予定などをふまえて、治療するか経過をみるかを決めます。TSHの読み方は健診でTSHの異常を指摘された方へで説明しています。

TSHが低い場合

 血液中の甲状腺ホルモンが多い状態が考えられます。このとき、TPO抗体やサイログロブリン抗体が陽性だからといって、橋本病と決めつけることはできません。これらの抗体はバセドウ病の方でも陽性になります。

国内の1つの医療機関で、5種類の測定キットを比べた報告では、バセドウ病の方でも、TPO抗体・サイログロブリン抗体はそれぞれ5〜8割で陽性でした(測定キットによって幅があります)。診断ガイドラインでも、橋本病の診断はバセドウ病を除いたうえで行うこととされています。甲状腺ホルモンが多い場合は、バセドウ病の手がかりになるTRAbや超音波検査で見分けます。また、橋本病の経過中に無痛性甲状腺炎を起こし、甲状腺ホルモンが一時的に多くなることもあります。

 いずれの場合も、治療が必要かどうかは、自己抗体の高さではなく、TSHとFT4を中心とした甲状腺の働き、症状、年齢、妊娠の予定などから判断します。

妊娠を希望される方・妊娠中の方は、考え方が変わります

 妊娠を希望されている方や妊娠中の方では、一般の成人とは異なる基準で甲状腺の働きを評価します。日本甲状腺学会の「潜在性甲状腺機能異常症の診断と治療の手引き(妊娠編)」では、妊娠初期にTSHが基準範囲の中でも高めのとき、甲状腺自己抗体が陽性であれば流産のリスクが高くなることが示されており、抗体が陽性かどうかは、妊娠を考える時期には評価の材料のひとつになります。

 ただし、抗体が陽性というだけで治療が必要になるわけではありません。TSHの値、自己抗体、不妊治療の有無などをふまえて、治療を検討するかどうかを判断します。また、出産後の数か月は、甲状腺の働きが一時的に乱れることがあります(無痛性甲状腺炎)。

 抗体が陽性で妊娠を希望されている方、妊娠中の方は、その旨を受診の際にお伝えください。妊娠中の管理については妊娠と甲状腺の病気で、不妊治療を受けておられる方の考え方は妊活・不妊治療と甲状腺で説明しています。

「抗体が陽性」と言われたあとに

 抗体が陽性と言われたら、甲状腺の働き(TSH・FT4)を一度確認しておくことが、次にすることです。健診で抗体だけが測られていて、TSH・FT4の結果がない場合はもちろん、TSH・FT4も基準範囲内だった場合も、その時点の値を起点として記録しておく意味があります。

 受診の際は、健診や他の医療機関の結果票をお持ちください。抗体の数値は施設や試薬によって違うため、以前の結果と並べて見ることで、数値の変化が体の変化なのか、測り方の違いなのかを切り分けやすくなります。

 次のような状態の方は、甲状腺を診療している医療機関にご相談ください。

  • 抗体が陽性と言われたが、甲状腺の働き(TSH・FT4)を調べていない
  • 抗体が陽性で、だるさ、むくみ、寒がり、体重の増加などの症状がある
  • 抗体が陽性で、首の前が腫れている、しこりに触れる
  • 抗体が陽性で、妊娠を希望されている、または妊娠中である
  • 以前に「経過観察」と言われたまま、その後の検査を受けていない

 どの診療科を受診すればよいかについては甲状腺の不調は何科を受診すればよいか、健診で指摘された異常の再検査全般については健診でTSHの異常を指摘された方へをご覧ください。

 当院では、問診と診察のうえで必要な検査を当日に行っています。甲状腺の働き(TSH・FT4・FT3)と甲状腺自己抗体(TPOAb・TgAb・TRAb)を院内で測定しており、採血後約1時間で結果をご説明します。甲状腺の腫れや内部の状態を確認する必要がある場合は、超音波検査も院内で行います。痛みはなく、所要時間は約15分です。

ご家族に橋本病の方がいる場合

 日本内分泌学会の「一般の皆様へ」では、橋本病になりやすい体質は遺伝するものの、それだけで発病するのではなく、何らかの誘因が加わって発病すると説明されています。ご家族に橋本病の方がいて、ご自身も抗体が陽性と言われた場合、不安に感じられるかもしれません。

 その場合も、調べること、判断のしかたは同じです。まずTSH・FT4で甲状腺の働きを確認します。首の腫れ・しこりがある場合や、甲状腺内部の状態を評価する必要がある場合は、超音波検査を行います。働きが保たれていれば定期的な血液検査で経過をみます。症状がなくても、一度は甲状腺の働きを確認しておくことをおすすめします。

よくあるご質問

Q.抗体が陽性なら、橋本病ということですか。

 抗体は橋本病の手がかりですが、甲状腺の働きにも腫れにも異常がなく抗体だけが陽性の場合は、診断ガイドラインでは「疑い例」にあたります。橋本病かどうか、治療が必要かどうかは、TSH・FT4、診察所見、症状、経過から判断します。必要に応じて超音波検査を組み合わせます。橋本病そのものについては橋本病(慢性甲状腺炎)とはをご覧ください。

Q.抗体の値が高いほど、橋本病は重いのでしょうか。

 抗体の高さだけで、甲状腺機能低下症の程度や治療の必要性が決まるわけではありません。治療が必要かどうかは、主にTSHとFT4、症状、妊娠の予定などから判断します。抗体の値を繰り返し測るよりも、甲状腺の働きの変化を確認することが大切です。抗体の数値の読み方はTPO抗体・Tg抗体とはで説明しています。

Q.抗体を下げる薬や食事はありますか。

 抗体そのものを下げることを目的とした治療は、通常は行いません。治療の対象になるのは、抗体ではなく甲状腺の働きの異常です。また、抗体が陽性という理由だけで、海藻類をすべて控える必要はありません。ヨウ素の摂りすぎが甲状腺の働きに影響していると疑われる場合に限って、医師の指示のもとで一定期間控えます。制限が要る人と要らない人の線引きは、ヨウ素と甲状腺|制限が要る人、要らない人でまとめています。サプリメントや食事と抗体の数値の関係はTPO抗体・Tg抗体とはで説明しています。

Q.抗体は一度陽性になると、ずっと陽性のままですか。

 抗体の値は経過の中で上がったり下がったりすることがあり、陰性になることもあります。ただし、抗体が下がったからといって甲状腺の働きが保証されるわけではなく、反対に高いままでも働きが正常な方は多くいます。診断がついたあとは、抗体を繰り返し測るよりも、TSH・FT4で働きの変化を確認することを優先します。

Q.次はいつ検査を受ければよいですか。

 甲状腺の働きが正常で症状がない場合は、数か月から年の単位で確認することが一般的ですが、TSHの値、症状の有無、年齢、妊娠の予定などによって間隔は変わります。妊娠を希望される方・妊娠中の方は、より短い間隔での確認が必要になることがあります。結果票をお持ちのうえ、受診先でご確認ください。

出典

このページの執筆者

窪田純久(くぼたクリニック院長・医学博士/日本甲状腺学会認定甲状腺専門医・評議員)
窪田創大(医師・医学博士/日本甲状腺学会認定甲状腺専門医、日本内分泌学会認定内分泌代謝科専門医・指導医、日本糖尿病学会認定糖尿病専門医)

院長・窪田純久は、日本甲状腺学会臨床重要課題「潜在性甲状腺機能異常症の診断と治療の手引き(妊娠編)」の妊娠班の班員を務めました。以前、痛みはないものの甲状腺が大きく腫れた橋本病が、原因不明の発熱の原因になりうることを報告しました(論文と院長による解説)。

院長は、甲状腺を専門としない医師に向けた専門書『やさしく解説 甲状腺疾患の診断と治療』(南江堂、改訂第2版・2025年)も執筆しています。

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