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甲状腺と骨

甲状腺と骨について、はじめに知っておいていただきたい点は次の3つです。

  • 甲状腺ホルモンが多い状態が続くと、骨がもろくなることが知られています
  • 影響の出方は誰でも同じではありません。閉経後の女性と、男性・閉経前の女性とでは、報告されている内容が違います
  • 甲状腺ホルモン剤を飲んでいる方も、量によっては同じ状態にあたります。ご自身の判断で減らさず、ご相談ください

甲状腺ホルモンは骨の新陳代謝に関わっています

 骨は、一度できあがったら変わらないものではありません。古い骨をこわす働きと、新しい骨をつくる働きが、生涯にわたってくり返されています。この入れ替わりの速さを調節している要素のひとつが、甲状腺ホルモンです。

 甲状腺ホルモンが多い状態が続くと、この入れ替わりが速くなりすぎます。こわす働きにつくる働きが追いつかず、骨の量が減っていきます。日本甲状腺学会の「バセドウ病治療ガイドライン2019」も、バセドウ病の合併症のひとつとして骨粗鬆症を挙げています。米国甲状腺学会(ATA)の2016年の診療ガイドラインも、治療されていない、あるいは治療が十分でない甲状腺中毒症に伴う問題として、体重減少や心房細動とならべて骨粗鬆症を挙げています。

 ホルモンが多くなる病気の全体像は甲状腺機能亢進症にまとめています。年代ごとの関わり方は年代・ライフステージ別にみる甲状腺の病気の「骨とのかかわり」もご覧ください。

骨への影響は、誰にでも同じように起こるわけではありません

 ここが、このページでいちばんお伝えしたい点です。

 甲状腺ホルモン(FT4・FT3)は基準の範囲におさまっているのに、甲状腺刺激ホルモン(TSH)だけが低いという状態を潜在性(せんざいせい)甲状腺機能亢進症といいます。症状がはっきりしない方が多い一方、症状のある方もおられます。この状態について、ATAの2016年のガイドラインは「閉経後の女性では骨の密度が下がるという報告が多い」としています。そのうえで、「男性や閉経前の女性では、同じ所見はみられていない」とも記しています。

 ただし、骨の密度と骨折は別の話です。同じガイドラインは、骨の密度が下がることが、そのまま骨折の増加につながるかどうかははっきりしないとしたうえで、骨折が増えたという報告には男性を対象にしたものも含まれると紹介しています。

 つまり、同じ検査結果でも、閉経前か閉経後か、男性か女性かで、気をつける点が変わります。「甲状腺を刺激するホルモンであるTSHが低い」と言われた場合も、その程度、続いている期間、年齢、閉経後かどうか、心臓や骨の状態をあわせて考えます。この一点だけで、骨のことを心配しすぎる必要も、逆に無視してよいと決めつける必要もありません。

 ホルモンが多くなる代表的な病気にはバセドウ病やプランマー病があります。

甲状腺ホルモン剤を飲んでいる方へ

 ここまでは、甲状腺そのものがホルモンをつくりすぎている場合の話です。甲状腺ホルモン剤を飲んでいて、その量が体に対して多い場合も、体の中では近い状態が起こります。ATAのガイドラインも、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が低く出たときに考えるべき原因のひとつとして、甲状腺ホルモン剤の服用を挙げています。

 橋本病などで補充を受けておられる方、甲状腺がんの手術のあとでホルモン剤を続けておられる方は、量が適切かどうかを定期的に確かめることに意味があります。とくに手術のあとは、治療上の目的でホルモン剤の量を多めに保つ場合があり、その必要性と骨への影響とを見比べながら決めていきます。

 ご自身の判断で量を減らしたり、飲むのをやめたりすることは避けてください。足りない状態には別の問題があり、骨のことだけで決められるものではありません。気になるときは、処方を受けている医療機関にご相談ください。

骨は、痛みで教えてくれません

 甲状腺の病気には、動悸やだるさといった自覚症状があります。ところが骨の密度の低下は、多くの場合、自覚症状のないまま進みます。骨折して初めて分かる、ということが起こります。

 だからこそ、甲状腺の側から先に気づけることに意味があります。甲状腺ホルモンが多い状態は血液検査で分かり、整えることができます。ATAの2016年のガイドラインは、甲状腺の治療によって骨の密度が改善したという報告を紹介していますが、いずれも規模の小さい研究で、対照となる群を置いたものがないとも述べています。どこまで戻るかを確かなこととして言える段階ではありません。

 甲状腺の働きを整えたあとに骨の密度が改善したという報告はありますが、どこまで戻るかは明らかではありません。甲状腺ホルモンが多い状態が続いている場合は、年齢、閉経後かどうか、心臓や骨の状態をあわせて、治療の必要性を判断します。甲状腺の値を指摘されたまま様子をみておられる方は、一度ご相談ください。

骨粗しょう症と言われた方へ

 骨粗しょう症の原因はさまざまですが、そのひとつとして甲状腺の働きの異常が挙げられます。骨粗しょう症があり、甲状腺の数値異常を指摘されている場合や、動悸・体重の変化などがある場合には、甲状腺の働きもあわせて確認します。

 ATAの2016年のガイドラインは、甲状腺刺激ホルモンが強く抑えられた状態が続いている方のうち、骨粗しょう症のある方、および閉経後で骨を守る薬(エストロゲンやビスホスホネート)を使っていない方について、甲状腺の治療を行うことをすすめています。65歳以上の方や、不整脈などの心疾患のある方も同じ対象に挙げられています。

 これは、骨粗しょう症の治療をやめるという意味ではありません。骨そのものの治療は、その治療にあたっておられる医療機関の判断によります。当院がお手伝いできるのは、甲状腺の側に原因がないかを確かめ、あれば整えることです。健診で甲状腺の数値を指摘されている方は健診でTSHの異常を指摘された方へも、ホルモンが多くなる病気については甲状腺機能亢進症もご覧ください。

どのように調べるのか

 甲状腺の側は、血液検査で調べます。甲状腺ホルモンと甲状腺刺激ホルモン、原因を見分けるための自己抗体を測り、必要に応じて超音波検査(エコー)で甲状腺の形を確かめます。当院では甲状腺ホルモンと甲状腺自己抗体を院内で測定しており、採血後約1時間で結果をご説明します。それぞれの検査で何を調べているのかは甲状腺の検査案内にまとめています。

 骨の量そのものを測る検査は、当院では行っておりません。骨の検査や治療については、受けておられる医療機関にご相談ください。当院では、その結果をうかがったうえで甲状腺の側を確かめます。

 どの科を受診すればよいか迷われたときは甲状腺の不調は何科?を、受付時間や持ち物などは受診案内をご覧ください。

よくあるご質問

甲状腺の治療をすれば、減った骨は元に戻りますか
日本甲状腺学会の「バセドウ病治療ガイドライン2019」は、骨粗鬆症では抗甲状腺薬による治療で骨密度が増加する可能性があるとしています。ただし、どこまで戻るかを確かなこととして言える段階ではありません。骨そのものの治療が必要かどうかは、骨を診ておられる医療機関であらためて判断されます。当院がお引き受けするのは甲状腺の側です。

甲状腺の薬を飲んでいますが、骨が心配です。減らしたほうがよいですか
ご自身の判断で減らさないでください。量が適切かどうかは血液検査で確かめられます。手術のあとなど、治療上の理由で量を多めに保っている場合もあり、その必要性とあわせて考えます。気になる点は診察時にお伝えください。

男性です。骨のことは気にしなくてよいのでしょうか
そうではありません。報告されている内容が女性と同じではない、ということです。甲状腺ホルモンが多い状態そのものが体に負担であることは、男女で変わりません。男性の甲状腺もご覧ください。

健診で甲状腺の値を指摘されましたが、症状はありません
症状がはっきりしない場合でも、状態が続いているかどうかを時間をおいて確かめます。年齢、閉経を迎えているか、心臓や骨の状態によって、その後の考え方が変わります。

出典

このページの執筆者

窪田純久(くぼたクリニック院長・医学博士/日本甲状腺学会認定甲状腺専門医・評議員)
窪田創大(医師・医学博士/日本甲状腺学会認定甲状腺専門医、日本内分泌学会専門医・指導医、日本糖尿病学会専門医)

院長・窪田純久は、甲状腺を専門としない医師に向けた専門書『やさしく解説 甲状腺疾患の診断と治療』(南江堂、改訂第2版・2025年)の著者です。日本甲状腺学会において、バセドウ病薬物治療・バセドウ病眼症診療・甲状腺結節診療・潜在性甲状腺機能低下症の各診療ガイドライン作成委員を務めています。

  • 執筆した医師の経歴などがある医師紹介はこちら
  • 院長自身による日本語の解説をつけた英文論文18編はこちら

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