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高齢の方の甲状腺

高齢の方の甲状腺について、はじめに知っておいていただきたい点は次の3つです。

  • 高齢の方では、甲状腺の病気の症状がはっきり出ないことが知られています
  • そのため年齢のせい、認知症のせいと受け取られて見過ごされる場合があります
  • 血液検査で確かめられます。治療をするかどうかは、その先で慎重に決めます

高齢の方では、症状が「らしく」出ません

 甲状腺ホルモンが多いとき、若い方では動悸、汗、手のふるえ、体重減少といった症状が目立ちやすいものです。ところが高齢の方では、これらがはっきりしません。日本甲状腺学会の甲状腺疾患診断ガイドライン2024は、バセドウ病について「高齢者の場合、臨床症状が乏しく、甲状腺腫が明らかでないことが多いので注意をする」と記しています。動悸や発汗、首の腫れといった典型的な症状が目立たず、元気がない、食が細くなった、体重が減ったといった変化が中心になる場合があります。

 ホルモンが足りないときも同じです。寒がり、だるさ、動きが遅くなる、便秘、むくみ、声のかすれ。どれも「年齢のせい」で説明がついてしまいます。甲状腺機能低下症では、もの忘れや動作の遅さがみられることがあります。ただし、認知機能の変化にはさまざまな原因があるため、甲状腺だけで判断するものではありません。

 日本内分泌学会は、甲状腺の働きがわずかに乱れている状態(潜在性甲状腺機能異常)について、年齢が上がるにつれて増えると説明しています。高齢の方に多い一方で、症状では気づきにくい。ここが、このページでお伝えしたい点です。

 だるさや疲れやすさから調べたい方はだるい・疲れやすいのは甲状腺?を、年代ごとの関わり方は年代・ライフステージ別にみる甲状腺の病気の「高齢の方」もご覧ください。

ご家族が先に気づかれることがあります

 ご本人にとっては、少しずつ進む変化です。変わったという自覚が持ちにくいものです。一方で、たまに会うご家族のほうが違いに気づかれる場合があります。

  • 以前より元気がない、外出をしなくなった
  • 食事の量が減った、体重が変わった
  • もの忘れが目立つようになった
  • 顔や足がむくんでいる、声がかすれてきた
  • 脈が速い、あるいは乱れている

 これらがあれば甲状腺だ、という意味ではありません。原因の多くは甲状腺以外にあります。ただし血液検査で確かめられる原因のひとつではあります。ご家族が気になっておられる場合は、その内容を診察の際にお聞かせください。

ホルモンが多いときに気をつけたいこと

 高齢の方でホルモンが多い状態が続くときは、心臓と骨に目を向けます。

 米国甲状腺学会(ATA)の2016年の診療ガイドラインは、潜在性甲状腺機能亢進症についても、心臓や血管に関わる危険は高齢の方でも若い方でも高まるとしたうえで、若い方では実際に起こる割合そのものが低いため、治療の利益と不利益がはっきりせず、一人ひとりの状況をみて決めるとしています。

 同じガイドラインは、甲状腺刺激ホルモンが強く抑えられた状態が続いている方について、65歳以上の方、不整脈などの心疾患のある方、骨粗しょう症のある方、閉経後で骨を守る薬を使っていない方には治療を行うことをすすめています。骨とのかかわりは甲状腺と骨にまとめています。

 ホルモンが多くなる病気にはバセドウ病などがあり、全体像は甲状腺機能亢進症にまとめています。

薬の始め方に配慮が要ります

 軽い異常が見つかったときは、まずそれが一時的なものでないかを確かめます。そのうえで薬を始める場合も、とくに高齢の方では始め方に配慮が要ります。

 日本内分泌学会は、甲状腺ホルモン剤による補充について、高齢の方や、心臓の血管の病気・不整脈のある方では慎重に内服を開始すると説明しています。少ない量から始めて、様子をみながら整えていく、という考え方です。

 また、補充する量が多すぎないかを確かめることも大切です。足りない状態を補うための薬ですが、量が体に対して多ければ、ホルモンが多い状態と同じことが起こります。橋本病などで長く補充を受けておられる方は、ご自身の判断で量を変えず、定期的に確かめていただくことをおすすめします。

ヨウ素の摂りすぎにご注意ください

 日本は、世界の中でもヨウ素をよく摂る国です。昆布やわかめなどの海藻に多く含まれます。

 日本内分泌学会は、橋本病をお持ちの方について、ヨウ素の過剰摂取(海藻類、薬剤、造影剤など)をきっかけとして甲状腺機能低下症を発症し、そこで橋本病が明らかになるのではないか、という考え方を示しています。この状態は一時的なもので、摂りすぎを控えるだけで甲状腺の働きが戻ることもあります。体によいと思って続けておられる習慣が、甲状腺には負担になっている場合があります。

 昆布だし、昆布茶、健康食品、うがい薬なども含まれます。橋本病があるという理由だけで、昆布や海藻、ヨウ素を含む製品を一律に中止する必要はありません。ただし、ヨウ素の摂りすぎが甲状腺機能低下の原因として疑われる場合は、医師の指示で一時的に控え、血液検査で変化を確認することがあります。自己判断で極端に制限せず、普段の食事、健康食品、うがい薬などの使用状況を診察の際にお伝えください。

 ヨウ素の摂り方、制限が要る場面と要らない場面はヨウ素と甲状腺|制限が要る人、要らない人にまとめています。

どのように調べるのか

 血液検査で甲状腺ホルモンと甲状腺刺激ホルモンを測り、原因を見分けるための自己抗体をあわせて調べます。必要に応じて超音波検査(エコー)で甲状腺の形を確かめます。

 当院では甲状腺ホルモンと甲状腺自己抗体を院内で測定しており、採血後約1時間で結果をご説明します。結果を聞くために再度ご来院いただく必要はありません。それぞれの検査で何を調べているのかは甲状腺の検査案内に、健診で数値を指摘された方は健診でTSHの異常を指摘された方へにまとめています。

 どの科を受診すればよいか迷われたときは甲状腺の不調は何科?を、受付時間や持ち物などは受診案内をご覧ください。

よくあるご質問

年齢に伴う変化と甲状腺の症状は、どのように見分けますか
だるさやもの忘れの原因の多くは甲状腺以外にあります。ただし甲状腺は血液検査で確かめられる原因のひとつです。気になる状態が続いているのであれば、一度調べておく意味があります。

もの忘れが心配です。甲状腺と関係がありますか
甲状腺の働きが下がっている状態と、もの忘れとの関連は報告されています。ただし、甲状腺を調べることで認知症かどうかが分かるわけではありません。認知症そのものの診断や治療は、それを専門とする医療機関の領分です。当院でお引き受けできるのは、甲状腺の側に原因がないかを確かめることです。

ほかの病気で通院していて、薬もたくさん飲んでいます
お薬手帳をご持参ください。飲み合わせや、甲状腺の検査値に影響する薬があるかを確認します。ほかの医療機関で受けておられる治療については、そちらの判断が優先されます。

薬を始めたら、一生飲み続けることになりますか
原因によります。ホルモンが足りない状態が続く場合は補充を続けますが、量が適切であれば1日1回の内服で普段どおりの生活を送っていただけます。一時的な変化であれば、終えられる場合もあります。

出典

このページの執筆者

窪田純久(くぼたクリニック院長・医学博士/日本甲状腺学会認定甲状腺専門医・評議員)
窪田創大(医師・医学博士/日本甲状腺学会認定甲状腺専門医、日本内分泌学会専門医・指導医、日本糖尿病学会専門医)

院長・窪田純久は、甲状腺を専門としない医師に向けた専門書『やさしく解説 甲状腺疾患の診断と治療』(南江堂、改訂第2版・2025年)の著者です。日本甲状腺学会において、バセドウ病薬物治療・バセドウ病眼症診療・甲状腺結節診療・潜在性甲状腺機能低下症の各診療ガイドライン作成委員を務めています。

  • 執筆した医師の経歴などがある医師紹介はこちら
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