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妊活・不妊治療と甲状腺

妊活・不妊治療と甲状腺について、はじめに知っておいていただきたい点は次の3つです。

  • 不妊の方や、流産をくり返している方には、TSH(甲状腺刺激ホルモン)の検査がすすめられています
  • ただし検査を受けることと、甲状腺ホルモン剤を飲むことは別の話です
  • 専門家の意見が分かれている範囲は、全体ではなく一部です

不妊の方や、流産をくり返している方には、甲状腺の検査がすすめられています

 米国甲状腺学会(ATA)の2026年の指針は、不妊の方や、流産をくり返している方が受診された場合、まだ妊娠していなければ全員に、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の検査を行うことをすすめています。甲状腺の働きの異常が、その原因のひとつとして考えられるためです。

 甲状腺の働きが乱れると、月経の周期や量が変わることがあります。月経の変化のほうが気になっている方は、月経の変化と甲状腺をご覧ください。

 妊娠中・産後を含めた全体像は妊娠と甲状腺の病気にまとめています。年代ごとの関わり方は年代・ライフステージ別にみる甲状腺の病気の「妊娠を考えている時期・不妊治療」もご覧ください。

検査を受けることと、薬を飲むことは別の話です

 ここが、このページでいちばんお伝えしたい点です。

 検査を受けるようすすめられていることと、その結果によって薬を飲むこととは、同じではありません。検査は「原因がそこにあるかどうかを確かめる」ために行うものです。甲状腺の働きに異常がなければ、通常は甲状腺の治療は必要ありません。自己抗体、これまでの経過、妊娠までのご予定などによっては、経過を確認する場合があります。

 実際、ATAの2026年の指針は、甲状腺の働きが正常で、甲状腺の自己抗体が陽性であるだけの不妊の女性については、甲状腺ホルモン剤による治療を行わないことをすすめています。これは同じ指針のなかでも強い推奨にあたり、甲状腺刺激ホルモンの値や、流産をくり返してきたかどうかにかかわらず、という但し書きが付いています。同じ指針は、副腎皮質ステロイドの内服や免疫グロブリンの点滴も行わないとしています。

 ただし「甲状腺を調べなくてよい」という意味ではありません。甲状腺の自己抗体が陽性の方では、時間の経過とともに甲状腺の働きが下がってくる場合があり、同じ指針は妊娠を計画している間は定期的に検査を繰り返してよいとしています。橋本病と、抗体が陽性と言われたときの考え方をまとめたTPO抗体・サイログロブリン抗体を指摘されたらもご覧ください。

意見が一致している範囲と、分かれている範囲があります

 甲状腺と妊活について調べていると、書かれていることが施設によって違うと感じられるかもしれません。実際、考え方が分かれている部分はあります。ただし、分かれているのは全体ではなく一部です。

 顕性の甲状腺機能低下症を治療する方向は、日本の手引きとATAの2026年の指針で一致しています。不妊治療をいつ始めるか・続けるかは、甲状腺の状態と不妊治療のご予定をあわせて、個別に調整します。ATAの指針は、甲状腺の働きが正常に戻るまで不妊治療を待ってよいとしています。

 一方、甲状腺刺激ホルモンが高くても甲状腺ホルモンが正常な状態(潜在性甲状腺機能低下症)が初めて見つかった場合は、すぐに治療を始めるとは限りません。ATAの2026年の指針は、一定の期間をあけて甲状腺刺激ホルモンと甲状腺ホルモンを測り直し、異常が続いているかを確かめてから甲状腺ホルモン剤を考えるとしています。1回の検査で異常だった方の多くが、測り直すと正常になるためです。異常が続く場合や、不妊治療を待つことが難しい場合には、補充を検討します。

 考え方が分かれるのは、検査の値が基準の範囲に近いところにある場合です。この範囲について、日本甲状腺学会がまとめた手引きも、ATAの2026年の指針も、妊娠前から甲状腺ホルモン剤を使う根拠は十分ではないという立場を取っています。

 この分野の考え方は、近年変わってきました。ATAの2026年の指針は、この点を「新しくなった点」として自ら挙げ、前回の指針のあとに発表された、質の高い3つの比較試験にもとづく変更であると明記しています。誰かが間違っていたということではなく、分かってきたことが変わったということです。

 ご自身の値がどこにあるかで、意見が分かれる範囲にあたるのかどうかが変わります。数値だけを見て決まるものではなく、これまでの経過やほかの検査の結果とあわせて考えます。数値の意味については妊娠と甲状腺の病気で説明しています。

すでに甲状腺の薬を飲んでいる方へ

 不妊治療にあたっておられる医療機関で、甲状腺ホルモン剤を処方されている方がおられます。

 ご自身の判断で中止したり、量を変えたりすることは避けてください。処方には、そこに至る経過と理由があります。まずは処方を受けている医療機関にご相談ください。

 当院にご相談いただく場合は、お薬手帳と、これまでの検査結果をお持ちください。いつから、どのような値で始まったのかが分かると、いま続ける意味があるかどうかを一緒に考えられます。やめることを前提にお話しするものではありません。

不妊治療中は、甲状腺の値が動くことがあります

 不妊治療で使われるお薬によって、甲状腺の検査値が動く場合があります。ATAの2026年の指針は、体外受精のために卵巣を刺激する治療の時期には、女性ホルモンが増える影響で甲状腺ホルモンの必要量が増し、甲状腺刺激ホルモンがわずかに上がると説明しています。すでに甲状腺ホルモン剤を決まった量で飲んでおられる方でも、同じ変化が起こります。また、子宮卵管造影の検査で使うヨードを含む造影剤も甲状腺に影響します。米国甲状腺学会(ATA)の2016年の診療ガイドラインも、ヨードを含む造影剤を甲状腺の働きが変わる原因のひとつとして挙げています。

 これは治療がうまくいっていないという意味ではありません。ただし、以前に測った値のままとは限らない、ということです。すでに甲状腺ホルモン剤を飲んでおられる方では、治療の時期に合わせて確かめておく意味があります。

 当院では不妊治療そのものは行っておりません。治療の進め方については、あたっておられる医療機関の判断によります。当院でお引き受けできるのは、甲状腺の側を確かめることです。

妊活のサプリメントとヨウ素

 妊活のためのサプリメントに、ヨウ素が含まれている場合があります。製品によって含まれる量が異なりますので、お使いの場合は、商品名や成分表示の分かるものを診察の際にお持ちください。

 日本は昆布やわかめなどの海藻をよく食べるため、ヨウ素の摂取量が多い国です。日本内分泌学会は、橋本病をお持ちの方について、ヨウ素の過剰摂取をきっかけとして甲状腺機能低下症を発症し、そこで橋本病が明らかになるのではないか、という考え方を示しています。この状態は一時的なもので、摂りすぎを控えるだけで甲状腺の働きが戻ることもあります。日本のヨウ素の事情、制限が要る場面と要らない場面はヨウ素と甲状腺|制限が要る人、要らない人にまとめています。

 やめていただく必要があるとは限りません。けれども、飲んでおられるサプリメントがあれば、成分の分かるものを診察の際にお持ちください。

パートナーの甲状腺

 妊活は女性だけの話ではありません。甲状腺の働きの乱れは、男性の側でも体調に影響します。パートナーにだるさ、体重の変化、動悸、寒がりなどの症状がある場合や、過去に甲状腺の異常を指摘されている場合は、甲状腺の働きを確認することがあります。男性での症状の現れ方と調べ方は男性の甲状腺にまとめています。

どのように調べるのか

 まず血液検査で甲状腺刺激ホルモンを中心に甲状腺の働きを確認し、必要に応じて甲状腺ホルモン(FT4・FT3)を測ります。甲状腺の自己抗体は、不妊の方や、流産をくり返している方には、あわせて調べることがあります。首の腫れ・しこりがある場合や、甲状腺の形を確認する必要がある場合には、超音波検査(エコー)を行います。

 当院では甲状腺ホルモンと甲状腺自己抗体を院内で測定しており、採血後約1時間で結果をご説明します。結果を聞くために再度ご来院いただく必要はありません。

 それぞれの検査で何を調べているのかは甲状腺の検査案内に、健診で数値を指摘された方は健診でTSHの異常を指摘された方へにまとめています。どの科を受診すればよいか迷われたときは甲状腺の不調は何科?を、受付時間や持ち物などは受診案内をご覧ください。

よくあるご質問

不妊治療のクリニックで甲状腺の薬を出されました。飲み続けてよいですか
ご自身の判断で中止しないでください。処方には経過と理由があります。まずは処方を受けている医療機関にご相談ください。当院にご相談いただく場合は、お薬手帳とこれまでの検査結果をお持ちいただけると、続ける意味があるかどうかを一緒に考えられます。

調べたところ、施設によって書いてあることが違いました
考え方が分かれている部分があるのは事実です。ただし分かれているのは一部で、甲状腺の働きがはっきり下がっている場合の対応は一致しています。ご自身の値がどこにあるかによって、意見が分かれる範囲にあたるのかどうかが変わります。

甲状腺の抗体が陽性と言われました。薬を飲んだほうがよいですか
甲状腺の働きが正常であれば、抗体が陽性であるという理由だけで甲状腺ホルモン剤を使うことは、現在の指針ではすすめられていません。ただし時間の経過とともに働きが下がってくる場合があり、定期的に確かめておく意味はあります。

体外受精を予定しています。いつ検査を受ければよいですか
治療の予定に合わせて、事前に確かめておく意味があります。すでに甲状腺ホルモン剤を飲んでおられる方では、治療の時期に値が動く場合があります。具体的な時期は、不妊治療にあたっておられる医療機関の予定とあわせてご相談ください。

出典

このページの執筆者

窪田純久(くぼたクリニック院長・医学博士/日本甲状腺学会認定甲状腺専門医・評議員)
窪田創大(医師・医学博士/日本甲状腺学会認定甲状腺専門医、日本内分泌学会専門医・指導医、日本糖尿病学会専門医)

院長・窪田純久は、甲状腺を専門としない医師に向けた専門書『やさしく解説 甲状腺疾患の診断と治療』(南江堂、改訂第2版・2025年)の著者です。日本甲状腺学会において、バセドウ病薬物治療・バセドウ病眼症診療・甲状腺結節診療・潜在性甲状腺機能低下症の各診療ガイドライン作成委員を務めています。このうち「潜在性甲状腺機能異常症の診断と治療の手引き(妊娠編)」では妊娠班の班員を務めました。

  • 執筆した医師の経歴などがある医師紹介はこちら
  • 院長自身による日本語の解説をつけた英文論文18編はこちら

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