メニュー

ヨウ素と甲状腺

ヨウ素(ヨード)と甲状腺の関係について、はじめに知っておいていただきたい点は次の3つです。

  • ヨウ素は甲状腺ホルモンの材料で、日本人は昆布などの海藻から、世界的にみても多く摂っています
  • 甲状腺の病気がない方に、ヨウ素の制限は必要ありません。制限が要るかどうかは、甲状腺の病気の有無と、これから受ける検査・治療によって決まります
  • 当院で行う血液検査と超音波検査の前に、ヨウ素を控えていただく必要は原則ありません。制限が必要になるのは、放射性ヨウ素を用いる検査・治療などで、実施する医療機関から指示を受けた場合です。内容と期間は紹介先の指示に従ってください

ヨウ素は甲状腺ホルモンの材料です

 ヨウ素は、甲状腺ホルモンをつくるために欠かせないミネラルです。体の中のヨウ素の70〜80%は甲状腺にあり、食事から摂ったヨウ素は甲状腺に取り込まれて、甲状腺ホルモンに組み込まれます。

 ヨウ素は海藻類や魚介類に多く、とくに昆布の含有量は群を抜いています。「日本人の食事摂取基準(2025年版)」(厚生労働省)では、日本人のヨウ素の最大の供給源は昆布と昆布だしで、日本人は世界でもまれな「ヨウ素を多く摂る集団」とされています。摂取量は成人の推奨量(1日140µg)を大きく上回ると推定されていますが、全国調査では地域差・個人差が大きいことが示されています。

 それでも日本人の多くが甲状腺の病気にならずに過ごせているのは、甲状腺に「ヨウ素が一時的に多く入ってきても、ホルモンの量を保つ」調節の仕組みが備わっているためです。

多すぎるとどうなるか、少なすぎるとどうなるか

多すぎるとき

 ヨウ素が長期にわたって過剰に入り続けると、甲状腺ホルモンの合成が抑えられ、甲状腺の働きが低下したり、甲状腺が腫れたりします。日本でも、昆布だし汁を1年近く多量に飲み続けた例や、昆布のお菓子を1か月食べ続けた例で、甲状腺機能低下や甲状腺腫が起きたことが報告されています。

 ここで大切なのは、このような機能低下は多くの場合「一時的」だという点です。「甲状腺疾患診断ガイドライン2024」(日本甲状腺学会)には、ヨウ素摂取過多や出産後などの場合は一過性の甲状腺機能低下症の可能性が高い、と記載されています。日本内分泌学会の一般向けの案内でも、ヨウ素の過剰摂取による甲状腺機能低下症は、摂取制限をするだけで改善するとされています。

 一方で、影響の出やすさには個人差があります。橋本病など、もともと甲状腺に病気のある方は、ヨウ素の摂りすぎをきっかけに甲状腺機能低下症を発症することがあります。当院の院長・窪田純久らは、甲状腺に小さな嚢胞が多発し、比較的多くのヨウ素を摂取している状況で甲状腺機能低下症を示した症例群を報告し、多発嚢胞性甲状腺疾患と名付けました(論文と院長による解説)。

少なすぎるとき

 ヨウ素が足りないと甲状腺ホルモンがつくれなくなり、甲状腺が腫れ、働きが低下します。ただし、これは内陸部など土壌にヨウ素が少ない地域の問題で、海藻や魚介類を食べる機会の多い日本では、通常の食生活でヨウ素不足になることはまれです。

 注意したいのは、意図的に海藻をすべて避け続けた場合です。食事摂取基準では、海藻類を食べない日本人集団のヨウ素摂取量は平均で1日73µgにすぎないと報告されており、海藻を避け続けることは、どの年齢でもヨウ素不足につながると指摘されています。「甲状腺が心配だから海藻をやめる」は、逆の問題を招きかねません。

ヨウ素の制限が要る人、要らない人

 「海藻はどこまで食べてよいか」への答えは、人によって違います。次の5つに分けて考えます。

1. 甲状腺の病気がない方は、通常の食事の範囲で一律の制限は不要です

 昆布だし、海藻サラダ、のりなどを、通常の献立の範囲で召し上がることに一律の制限はありません。ただし、昆布製品やヨウ素を含む健康食品を毎日多量に摂るような偏った摂り方は避けてください。食事摂取基準でも、昆布をはじめとする海藻類を食生活の中で適切に利用することが重要とされています。

2. 橋本病・甲状腺機能低下症の方は、「極端な摂り方」を避けます

 橋本病があるという理由だけで、海藻類をすべて控える必要はありません。避けていただきたいのは、昆布だしや昆布加工品を毎日多量にとる、ヨウ素を含むサプリメントやヨード卵を常用する、ヨウ素入りのうがい薬を長く使い続ける、といった偏った摂り方です。ヨウ素の摂りすぎが甲状腺機能低下の原因として疑われる場合には、医師の指示のもとで、2週間程度ヨウ素の多い食品や製品を控え、そのあとに血液検査で確認します。控えるだけで甲状腺の働きが戻ることもあります。どこまで控えるかは、検査結果と食生活を確認したうえで主治医が判断します。詳しくは橋本病(慢性甲状腺炎)とはをご覧ください。

3. バセドウ病で治療中の方は、主治医の指示に従います

 抗甲状腺薬による治療中は、通常の食事として海藻類を一律に制限する必要はありません。ただし、昆布製品やヨウ素を含むサプリメントなどを大量に摂り続けることは避けてください。治療にヨウ素そのものを薬として使う場合(無機ヨウ素薬)もあるため、市販のヨウ素を含む製品を自己判断で増やしたり減らしたりせず、主治医にご相談ください。バセドウ病とはに詳しくまとめています。

4. 妊娠中・授乳中の方は、必要ですが摂りすぎには注意します

 妊娠中・授乳中はヨウ素の必要量が増えますが、胎児期や新生児期はヨウ素の影響を受けやすいため、摂りすぎのほうに注意が要ります。あとの「妊娠中・授乳中のヨウ素」で説明します。

5. 紹介先でシンチグラフィやアイソトープ治療を受ける方は、紹介先の指示に従います

 放射性ヨウ素を使う検査・治療では、体内にヨウ素が多いと放射性ヨウ素が甲状腺に取り込まれにくくなるため、一定期間ヨウ素を控える必要があります。当院ではこれらの検査・治療を行っておらず、必要と判断される場合は隈病院をご紹介しています。何を、いつから、どのくらいの期間控えるかは、検査・治療を行う医療機関の指示に従ってください。当院で期間を指定することはありません。

日常でよく聞かれるもの(昆布だし・うがい薬・造影剤・サプリメント)

 食品ごとのヨウ素量を一覧にしても、実際の量は産地や調理法で大きく変わります。ここでは「なぜ問題になるのか」の仕組みで説明します。

昆布だし・とろろ昆布・昆布の佃煮

 海藻の中でも昆布は別格で、日本人のヨウ素摂取の大部分は昆布と昆布だしに由来します。わかめ・のり・ひじきなどにも含まれますが、昆布に比べると少量です。「海藻全般」ではなく、「昆布製品を毎日どれだけとっているか」が実際の判断材料になります。昆布由来のヨウ素は2日以内に尿へ排泄されるため、健康な成人であれば、昆布だしの献立が続いても、連日でなければ問題になりません。

ヨウ素入りのうがい薬(ポビドンヨード)

 うがい薬に含まれるポビドンヨードは、口やのどの粘膜から吸収されます。市販のうがい薬の添付文書でも、甲状腺機能障害の診断を受けた人は使用前に医師・薬剤師などに相談すること、とされています。風邪のときに数日使うことと、予防のために毎日、何か月も使い続けることとでは、体に入るヨウ素の量が大きく違います。甲状腺の病気がある方で、長く使っている場合は、受診の際にお知らせください。ヨウ素を含まないうがい薬に切り替えるかどうかは、主治医や薬剤師にご相談ください。

造影剤を使ったCT検査のあと

 CT検査などで使うヨード造影剤には多量のヨウ素が含まれており、注射のあとしばらく甲状腺に影響します。2020年には、すべてのヨード造影剤の添付文書に、副作用として甲状腺機能低下症が追記されました。多くは一時的ですが、橋本病や甲状腺機能低下症のある方では影響が出やすく、検査値が変わる場合があります。最近、造影剤を使った検査を受けた方は、受診の際に検査の時期をお知らせください。当院の血液検査そのものは受けていただけますが、結果を読むときにその情報が必要です。

ヨウ素のサプリメント・ケルプ・ヨード卵

 ケルプ(海藻)のサプリメントや海外製のマルチミネラルには、ヨウ素を含むものがあります。日本ではふつうの食事でヨウ素が足りているため、ヨウ素を目的にサプリメントを摂る必要はふつうありません。国立健康・栄養研究所も、ヨウ素の摂取を目的としたサプリメント類の利用には注意が必要としています。ヨウ素を強化した卵(ヨード卵)も、日本内分泌学会の案内でヨウ素過剰の原因のひとつに挙げられています。甲状腺の病気がある方は、成分表示にヨウ素(ヨード・ケルプ・昆布)が入っていないか確認し、入っている場合は主治医にお伝えください。

妊娠中・授乳中のヨウ素

 妊娠中は赤ちゃんの甲状腺ホルモンをつくるためにヨウ素の必要量が増え、授乳中は母乳を通してヨウ素が失われます。食事摂取基準でも、妊婦・授乳婦には付加量が設定されています。ただし日本では、ふつうの食事でこの量は十分に摂れており、日本で通常の食事をしている方が、一律にヨウ素サプリメントを追加する必要は通常ありません。海外の指針にはヨウ素のサプリメントを勧めるものがありますが、ヨウ素の少ない地域を前提にしたもので、摂取量の多い日本にはそのまま当てはまりません。

 むしろ注意したいのは摂りすぎのほうです。胎児期・新生児期はヨウ素に対する感受性が高いと考えられているため、妊婦・授乳婦の耐容上限量(1日2,000µg)は一般成人(1日3,000µg)より低く設定されています。昆布だしや昆布製品を毎日多量にとることは避け、海藻はふつうの献立の範囲で召し上がってください。

 当院の院長・窪田純久は、甲状腺の病気のない日本人の妊婦さん514人を対象に、妊娠初期の甲状腺機能と尿中のヨウ素量、生まれた赤ちゃんの発達との関係を調べた研究を発表しています(パルモア病院との共同研究)。この研究では、日本人の妊婦さんはやはりヨウ素の摂取量が多いこと、尿中のヨウ素が多いほどTSHがやや高い傾向があることが示されました。また、妊娠初期の母体のTSHは、生まれた赤ちゃんの状態、胎児の成熟度、乳児期の発達検査のいずれとも関連がありませんでした。原著は「健康な日本人女性では、妊娠初期のヨウ素の過剰は胎児に有害ではないと思われる」と述べたうえで、「甲状腺機能低下症を避けるために、過剰なヨウ素摂取を適度に減らすことは、日本の妊婦さんにとって有益かもしれない」としています(院長の解説つき英文論文一覧)。これは健康な妊婦さんを観察した研究であり、甲状腺の病気のある方や、ヨウ素を極端に多く摂った場合の安全性を示すものではありません。

 妊娠中の甲状腺の管理全体については、妊娠と甲状腺の病気をご覧ください。

当院の検査の前に、ヨウ素の制限は原則いりません

 当院で行う甲状腺の検査は、血液検査(TSH・FT4・FT3、甲状腺自己抗体など)と超音波検査です。これらの検査のために、あらかじめ海藻を控えていただく必要はありません。ふだんどおりの食生活のまま受けていただくほうが、日常の状態を反映した結果になります。超音波検査の内容は甲状腺の超音波検査(エコー)で見ているものでまとめています。

 ただし、結果を正しく読むために、次のことは問診でお知らせください。

  • 昆布だし・昆布加工品を毎日とっている
  • ヨウ素入りのうがい薬を長く使っている
  • ヨウ素やケルプを含むサプリメント、ヨード卵を常用している
  • 最近、造影剤を使った検査を受けた
  • 甲状腺の薬(甲状腺ホルモン薬・抗甲状腺薬・無機ヨウ素薬)を服用している

 ヨウ素の摂りすぎが疑われる場合の2週間程度の制限は、診断のために医師の指示で行うものです。検査を受ける前に自己判断で控えていただく必要はありません。

 制限が必要になるのは、放射性ヨウ素を用いる検査・治療などで、実施する医療機関から指示を受けた場合です。内容と期間は紹介先の指示に従ってください。検査全体の流れは甲状腺の検査案内にまとめています。

ヨウ素のことで受診を考えるとき

 次のような場合は、甲状腺を診療している医療機関にご相談ください。

  • 橋本病・甲状腺機能低下症と言われていて、昆布製品やヨウ素を含む製品を日常的にとっている
  • 健診で甲状腺の数値の異常を指摘され、昆布だし・うがい薬・サプリメント・造影剤のいずれかに心当たりがある
  • だるさ、むくみ、寒がり、体重が増える、便秘など、甲状腺ホルモンが少ないときにみられる症状が続いている
  • 首の前が腫れてきた
  • 妊娠中・授乳中で、ヨウ素の摂り方に不安がある

 受診の際は、これまでの検査結果の記録と、使っているサプリメントやうがい薬の名前が分かるものをお持ちください。当院では、甲状腺ホルモンと甲状腺自己抗体を院内で測定しており、採血後約1時間で結果をご説明します。超音波検査(痛みはなく、約15分)も院内で行っています。健診で異常を指摘された方は健診でTSHの異常を指摘された方へ、どの診療科を受診するかは甲状腺の不調は何科を受診すればよいかもあわせてご覧ください。

よくあるご質問

Q.橋本病と言われました。海藻は全部やめるべきですか。

 いいえ。避けるのは、昆布製品・サプリメント・ヨード卵・ヨウ素入りのうがい薬などの偏った摂り方です。海藻を避け続けると、かえってヨウ素不足につながります。

Q.造影CTを受けたばかりです。甲状腺の血液検査は受けられますか。

 受けていただけます。ただし、造影剤の影響で一時的に検査値が変わる場合があるため、検査を受けた日をお知らせください。結果を読むときにその情報を使います。放射性ヨウ素を用いる検査を予定している場合は、時期の判断を紹介先が行います。

Q.イソジンで毎日うがいをしています。やめたほうがよいですか。

 甲状腺機能障害の診断を受けた方は、市販のうがい薬の添付文書でも、使用前に医師や薬剤師に相談することとされています。甲状腺の病気がある方で長く使っておられる場合は、続けてよいか、ヨウ素を含まないうがい薬に切り替えるかを、主治医にご相談ください。

Q.隈病院でアイソトープ治療を受けることになりました。何日前から昆布を控えればよいですか。

 制限の内容と期間は、治療を行う医療機関から説明があります。当院で期間を指定することはありませんので、紹介先の指示に従ってください。

出典

このページの執筆者

窪田純久(くぼたクリニック院長・医学博士/日本甲状腺学会認定甲状腺専門医・評議員)
窪田創大(医師・医学博士/日本甲状腺学会認定甲状腺専門医、日本内分泌学会専門医・指導医、日本糖尿病学会専門医)

院長・窪田純久は、日本人の妊婦さん514人を対象に、妊娠初期の甲状腺機能とヨウ素摂取量、生まれた赤ちゃんの発達との関係を調べた研究を発表しています。また、甲状腺に小さな嚢胞が多発し、比較的多くのヨウ素を摂取している状況で甲状腺機能低下症を示した症例群を報告し、多発嚢胞性甲状腺疾患として提唱しました(論文と院長による解説)。甲状腺専門病院でのヨード制限食の実際についての解説も執筆しています(和文の著書・論文一覧)。

院長は、甲状腺を専門としない医師に向けた専門書『やさしく解説 甲状腺疾患の診断と治療』(南江堂、改訂第2版・2025年)も執筆しています。

  • 執筆した医師の経歴などがある医師紹介はこちら
  • 院長自身による日本語の解説をつけた英文論文18編はこちら

← 甲状腺疾患について(一覧)に戻る

HOME

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME