年代・ライフステージ別にみる甲状腺の病気
甲状腺の病気と年代について、はじめに知っておいていただきたい点は次の3つです。
- 甲状腺の病気はどの年代にも起こります。ただし、その時期に何を気にするかは変わります
- 年代によって気づかれ方が変わります。ほかの原因のせいだと受け取られて、見過ごされる場合があります
- 調べ方の基本はどの年代でも共通です。必要な検査の組み合わせや結果の見方は、症状や妊娠などの状況によって変わります。問診・診察と血液検査が基本で、首の腫れ・しこりなど甲状腺の形を評価する必要がある場合に超音波検査(エコー)を組み合わせます
このページの内容
- なぜ年代や性別で分けて考えるのか
- お子さん・思春期
- 月経の変化
- 妊娠を考えている時期・不妊治療
- 妊娠中と産後
- 更年期の年代
- 骨とのかかわり
- 高齢の方
- 男性の甲状腺
- 家族に甲状腺の病気の人がいる方へ
- 調べ方の基本は、どの年代でも共通です
なぜ年代や性別で分けて考えるのか
甲状腺は、のどぼとけの下にある小さな臓器で、全身の代謝を整えるホルモンをつくっています。全身に関わるため、甲状腺の働きが乱れたときの症状は、その年代でよくみられる不調と重なります。そこが、この病気の見つけにくさです。
たとえば、だるさや体重の変化は、思春期であれば成長や生活の変化と受け取られます。同じ症状が、産後であれば育児の疲れと、更年期の年代であればその時期の不調と、高齢であれば年齢のせいと受け取られます。症状が同じでも、周りが思い浮かべる原因が年代ごとに違うということです。
バセドウ病や橋本病は、免疫のはたらきが自分の甲状腺に向かってしまう病気です。バセドウ病は20〜40代の女性に多くみられ、橋本病も女性に多くみられます。いずれも男性や高齢の方に起こります。「女性の病気」と言い切れるものではありません。
このページは、年代や状況ごとに、どこに気をつけるとよいかをまとめたものです。病気ごとの説明は甲状腺疾患について(一覧)に、症状から調べたい方はだるい・疲れやすいのは甲状腺?にまとめています。
お子さん・思春期
子どもにも甲状腺の病気は起こります。バセドウ病も橋本病も、学童期から思春期にかけて発症する方がおられます。
この年代で気をつけたいのは、症状が生活の変化として受け取られやすいことです。落ち着きがない、集中が続かない、成績が下がった、疲れやすくて部活がつらい、身長の伸び方が変わった、といった形で現れます。思春期の変化として説明がついてしまうため、甲状腺が思い浮かびにくくなります。
首の腫れで気づかれる方もおられます。首の腫れは、ご家庭や学校生活のなかで、本人以外の方が気づく場合もあります。
当院で診療できるのは、採血を受けていただける年齢からです。目安は小学生以上で、成長の度合いによります。乳幼児から未就学のお子さんについては、小児科や小児内分泌を専門とする施設が主な相談先です。受診の流れや持ち物などは受診案内をご覧ください。
大人との現れ方の違いや、当院で診療できる年齢についてはお子さんの甲状腺にくわしくまとめています。
月経の変化
月経の周期や量が変わる原因はさまざまですが、そのひとつとして甲状腺の働きの異常が挙げられます。甲状腺ホルモンが多いときにも、足りないときにも、月経に変化がみられる場合があります。
婦人科で調べても原因がはっきりしないとき、あるいは月経の変化とあわせてだるさ・体重の変化・動悸・寒がりや暑がりといった症状があるときには、甲状腺を調べる意味があります。だるい・疲れやすいのは甲状腺?もあわせてご覧ください。
月経の変化と甲状腺のかかわりは月経の変化と甲状腺にくわしくまとめています。妊娠を考えておられる方は妊娠を考えている時期・不妊治療もご覧ください。
妊娠を考えている時期・不妊治療
妊娠を考えている時期には、妊娠前に甲状腺の働きや服用しているお薬を確認・調整しておくことが重要な場合があります。日本甲状腺学会は、この時期を対象にした「潜在性甲状腺機能異常症の診断と治療の手引き(妊娠編)」をまとめており、妊娠前の甲状腺の状態が妊娠しやすさや妊娠の経過にどう関わるかを扱っています。
不妊治療を受けておられる方では、治療を始める前に甲状腺の検査を行う場合があります。すでに甲状腺の薬を飲んでおられる方は、妊娠を考え始めた時点で一度ご相談ください。薬の種類や量について、この時期ならではの考え方があるためです。
妊活・不妊治療の時期については妊活・不妊治療と甲状腺に、妊娠してからのことは妊娠と甲状腺の病気にまとめています。
妊娠中と産後
妊娠すると、甲状腺の値の見方そのものが変わります。妊娠していないときと同じ基準では判断しません。妊娠の初期には、胎盤から出るホルモンの影響で甲状腺の働きが一時的に強まる方もおられます。
産後にも変化が起こります。出産して数か月してから、甲状腺に炎症が起きてホルモンが一時的にもれ出す無痛性甲状腺炎が起こる場合があり、産後に起こったものを産後甲状腺炎といいます。動悸やだるさが育児の疲れと受け取られ、見過ごされることがあります。
妊娠中・産後の甲状腺については妊娠と甲状腺の病気にまとめています。
更年期の年代
ほてり、動悸、汗、だるさ、気分の変動。更年期に伴う症状と、甲状腺の働きの異常による症状は重なります。そのため、更年期のせいだと受け取られて甲状腺の変化が見過ごされる場合があります。甲状腺の血液検査では、甲状腺の働きの異常が関係しているかを確認できます。ただし、甲状腺の検査が正常であることだけで、更年期に伴う症状と決まるものではありません。
甲状腺の働きが下がる変化と更年期の症状は、起こりやすい年代が重なります。見分け方はだるい・疲れやすいのは甲状腺?に、更年期外来や婦人科と迷われたときは甲状腺の不調は何科?にまとめています。
骨とのかかわり
甲状腺ホルモンが多い状態が続くと、骨がもろくなることが知られています。米国甲状腺学会(ATA)の2016年の診療ガイドラインも、治療されていない甲状腺中毒症に伴う問題のひとつとして骨粗しょう症を挙げています。
甲状腺ホルモンは基準の範囲におさまっているのに甲状腺刺激ホルモンだけが低い状態(潜在性甲状腺機能亢進症)についても、同じガイドラインは、多くの研究では閉経後の女性で骨の密度の低下がみられる一方、男性や閉経前の女性では同様の低下は示されていないとしています。ただし、骨の密度と骨折のしやすさは同じではなく、男性で骨折の増加を報告した研究もあります。骨への影響は、どの年代の誰にでも同じように起こるわけではありません。
骨の検査で指摘を受けた方、あるいは甲状腺の値を指摘されていて骨のことが気になる方は、あわせてご相談ください。ホルモンが多くなる病気については甲状腺機能亢進症にまとめています。
甲状腺と骨のかかわりは甲状腺と骨にくわしくまとめています。年代による違いは高齢の方もご覧ください。
高齢の方
高齢の方では、甲状腺の病気の症状がはっきり出ないことが知られています。ホルモンが多くても動悸や汗が目立たず、元気がない、食が細い、体重が減った、といった形だけで現れる場合があります。ホルモンが足りないときも、寒がり・だるさ・物忘れが年齢のせいと受け取られやすくなります。
もうひとつ、心臓への影響があります。同じ検査結果でも、年齢によって考え方が変わります。
ホルモンが多くなる病気は甲状腺機能亢進症、足りなくなる病気の代表である橋本病もご覧ください。骨への影響は骨とのかかわりに書いています。
高齢の方で気をつけたい点は高齢の方の甲状腺にくわしくまとめています。
男性の甲状腺
甲状腺の病気は女性に多くみられますが、男性にも起こります。「女性の病気」という印象があるために、男性ご自身も、周りも、甲状腺を思い浮かべにくいという事情があります。
だるさ、体重の変化、動悸、汗の多さ、集中しにくさ。こうした症状が続くとき、働き盛りの年代では仕事の疲れやストレスとして片づけられがちです。健診で甲状腺の数値を指摘されたまま、そのままにされている方もおられます。
なお、骨とのかかわりの節で述べたとおり、骨への影響については男性では女性と同じ所見がみられていません。男性だから軽い、という意味ではなく、気をつける点が同じではないということです。バセドウ病も橋本病も、男性の患者さんがおられます。
男性に起こる甲状腺の病気については男性の甲状腺にくわしくまとめています。
家族に甲状腺の病気の人がいる方へ
甲状腺の病気は、家族の中で複数の方にみられる場合があります。日本内分泌学会は、バセドウ病について「親、兄弟、祖父母がバセドウ病の方は、一般の人に比べて20〜40倍くらいバセドウ病になりやすいと言われています」と説明しています。
ただし、これは「必ず発症する」という意味ではありません。同じ学会は、なりやすい体質があっても、そこに環境の要因が加わってはじめて発病すると説明しています。体質は変えられませんが、変化に気づける状態にしておくことはできます。
ご家族に甲状腺の病気の方がおられて、ご自身にも気になる症状があるときは、一度調べておく意味があります。橋本病・バセドウ病もご覧ください。
遺伝との関係や、家族歴があるときにどうすればよいかは家族に甲状腺の病気の人がいる方へにくわしくまとめています。
調べ方の基本は、どの年代でも共通です
ここまで年代ごとの違いを述べてきましたが、調べ方の基本は変わりません。甲状腺ホルモンの状態を見る血液検査と、形を見る超音波検査(エコー)が軸になります。必要な検査の組み合わせや結果の見方は、症状や妊娠などの状況によって変わります。
当院では甲状腺ホルモンと甲状腺自己抗体を院内で測定しており、採血後約1時間で結果をご説明します。それぞれの検査で何を調べているのかは甲状腺の検査案内に、健診で数値を指摘された方は健診でTSHの異常を指摘された方へにまとめています。
受診について
どの科を受診すればよいか迷われたときは甲状腺の不調は何科?を、受付時間や持ち物などは受診案内をご覧ください。
出典
- 甲状腺疾患診断ガイドライン2024.一般社団法人日本甲状腺学会
- 潜在性甲状腺機能異常症の診断と治療の手引き(妊娠編).一般社団法人日本甲状腺学会 臨床重要課題
- バセドウ病.一般社団法人日本内分泌学会「一般の皆様へ」
- Ross DS, Burch HB, Cooper DS, et al. 2016 American Thyroid Association guidelines for diagnosis and management of hyperthyroidism and other causes of thyrotoxicosis. Thyroid. 2016;26(10):1343-1421.
