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検査値と症状が合わないとき

甲状腺の検査で「数値と症状が合わない」「前と値が違う」と言われた方に、はじめに知っておいていただきたい点は次の3つです。

  • 甲状腺の血液検査は、サプリメント・薬、体の状態、測定への干渉、採血のタイミングによって、症状や経過と合わない値を示すことがあります
  • 理由には2種類あります。測定結果が実際の血中濃度とずれる場合と、測定結果そのものは正しくても、妊娠や服薬など普段とは異なる条件を映している場合です。手がかりは、TSHとFT4・FT3の組み合わせ、症状、服薬状況、そして時間をおいた再検査です
  • そのために、これまでの結果票と、使っている薬・サプリメントを受診のときにお持ちください。採血の前に中止するかどうかは、自己判断せず、医療機関の指示に従ってください

検査値と症状が合わない理由は、「測定への干渉」と「測定時の条件」に分けて考えます

 甲状腺の血液検査では、TSH(甲状腺刺激ホルモン)とFT4・FT3(甲状腺ホルモン)を測ります。この2つはシーソーのように逆方向に動く関係にあり、その組み合わせで甲状腺の働きを判断します。組み合わせの読み方は健診でTSHの異常を指摘された方へでまとめています。

 ところが、検査の値が症状や経過と合わないことがあります。理由には、性質の異なる2つがあります。

1. 測定結果が、実際の血中濃度とずれる場合

  • ビオチンなどのサプリメントが、測定の仕組みそのものを邪魔する
  • 血液の中にある抗体(異好抗体、マクロTSHなど)が、測定を邪魔する

2. 測定結果そのものは正しく、普段とは異なる条件を映している場合

  • 妊娠の初期の生理的な変化
  • 重い病気のとき、病気からの回復の途中
  • 甲状腺ホルモン薬を飲んだ直後の採血
  • 甲状腺の働きそのものを変えるお薬の影響

 2は「検査が誤っている」という意味ではありません。その時点の体の状態や服薬の条件を、正しく測っています。

 測定そのものへの干渉(1)はまれですが、妊娠中の方や、甲状腺ホルモン薬を飲んでおられる方では、値が動くこと(2)は珍しくありません。これらの仕組みを知っていると原因を考える手がかりになりますが、確認には再検査や検査室での追加検討が必要になる場合があります。このページでは、その仕組みを順に説明します。健診で指摘されたときの進め方や、受診の目安は健診でTSHの異常を指摘された方へをご覧ください。

サプリメント・薬の影響は、測定に影響するものと、甲状腺そのものに影響するものに分かれます

1. 測定そのものに影響するもの(ビオチン)

 美容や髪・爪のためのサプリメントに含まれるビオチン(ビタミンB7)は、代表的な例です。ビオチンには、アビジンやストレプトアビジンというたんぱく質と非常に強く結びつく性質があります。血液中のホルモンを測る検査の多くは、この結びつきの強さを利用して、目的のホルモンを試薬に「つかまえる」仕組みになっています。

 ここに、サプリメントで摂った大量のビオチンが血液中に残っていると、ホルモンをつかまえるはずの場所をビオチンが先にふさいでしまい、測定の結果が実際とずれます。日本小児科学会などが2020年に出した注意喚起では、大量のビオチンがあると、甲状腺ホルモンの測定では高値に、TSHの測定では逆に低値を示すため、バセドウ病のような検査結果になった症例が報告されている、とされています。

 高く出るものと低く出るものがあるのは、測り方が項目によって違うためです。TSHのように目的のホルモンを二つの試薬ではさみ込んで測る方式では、ビオチンが邪魔をすると結果は低く出ます。FT4・FT3のように試薬を取り合わせて測る方式では、逆に高く出ます。両方が同時に起これば、TSHが低く甲状腺ホルモンが高い、つまり甲状腺の働きが強すぎるように見える組み合わせになります。

 この性質は測定の原理そのものによるもので、当院で用いている測定法も、ビオチンの影響を受ける仕組みに含まれます。だからこそ、ビオチンを含むサプリメントを使っておられる場合は、受診のときにお知らせください。採血の前に中止する必要があるかどうかは、自己判断せず、医療機関の指示に従ってください。

2. 甲状腺そのものの働きを変えるもの

 こちらは、測定がずれるのではなく、薬の作用で甲状腺の働きが実際に変わっている場合です。ヨウ素を多く含む薬・うがい薬・造影剤、不整脈の薬(アミオダロン)、炭酸リチウム、インターフェロン、一部のがんの薬などが知られています。ヨウ素については、日常でどこまで気をつければよいかをヨウ素と甲状腺|制限が要る人、要らない人でまとめています。ステロイド薬は、TSHを下げる方向にはたらきます。これらの薬の一覧と対応の考え方はだるい・疲れやすいのは甲状腺?にまとめています。

 鉄剤やカルシウム剤、一部の胃薬のように、甲状腺ホルモン薬の吸収を妨げて、薬の効き方を変えるものもあります(橋本病(慢性甲状腺炎)とは)。

 どの薬であっても、処方薬・市販薬・サプリメントを使っておられる場合は、受診のときにお知らせください。服用中の薬を自己判断で中止しないでください。

体の状態の影響(妊娠初期、重い病気のとき、回復の途中)

 甲状腺に病気がなくても、体の状態によって検査値は動きます。

妊娠の初期

 妊娠すると、胎盤からhCGというホルモンが出ます。hCGはTSHと形がよく似ているため、甲状腺を弱く刺激し、そのぶんTSHが生理的に低くなります。妊娠していない方の基準範囲だけで判断することはできませんので、妊娠中の方や妊娠の可能性がある方は、受診のときに週数をあわせてお知らせください。妊娠中の考え方は妊娠と甲状腺の病気と甲状腺機能亢進症とはで説明しています。

重い病気のとき

 入院が必要なほどの重い病気にかかっているときは、甲状腺に病気がなくても、FT3が低くなったり、TSHが動いたりします。「甲状腺疾患診断ガイドライン2024」でも、中枢性甲状腺機能低下症の診断にあたって、重症の消耗性疾患にともなう非甲状腺疾患(低T3症候群)との見分けが必要とされています。この時期の検査値だけで甲状腺の病気を判断することはできず、体調が落ち着いてから測り直します。

回復の途中

 TSHの変化は、甲状腺ホルモンの変化よりも遅れて現れます。甲状腺ホルモンが多い時期のあとや、少ない時期からの回復期には、甲状腺ホルモンが正常に戻っているのにTSHだけがまだ高い、あるいは低い、という時期が生じます。健診の1回の結果と再検査の結果が違うことがあるのは、このためでもあります。

血液の中の「抗体」が測定を邪魔することがあります

 ホルモンの測定には、目的のホルモンだけに結びつく抗体を使います。ところが、ご本人の血液の中に、この測定の仕組みに反応してしまう抗体があると、実際のホルモン量とは違う値が出ることがあります。これを測定への干渉といいます。干渉は、どの会社の、どの測定法にも起こりうるもので、特定の測定法だけの問題ではありません。国内の症例報告でも、3種類の測定試薬すべてで同じようにTSHが高く出た例が報告されています。

 代表的なものは次の3つです。

  • マクロTSH … TSHが、免疫グロブリン(IgG)という抗体と結びついて大きな塊になったものです。塊になったTSHは働きが弱いのに、測定では数に入ってしまうため、TSHだけが高く、FT4は正常という結果になります。潜在性甲状腺機能低下症とよく似た結果になるため、区別が必要です。潜在性甲状腺機能低下症と診断された方を対象にした国内研究でも、マクロTSHが見つかっています。報告される割合は研究や判定方法によって異なりますが、まれな状態です
  • 異好抗体 … 測定に使う試薬の抗体は動物由来のものが多く、ご本人がそれに反応する抗体を持っていると、測定法によって、TSHが実際より高く、または低く出ることがあります
  • 甲状腺ホルモンに対する自己抗体 … 甲状腺ホルモンそのものに結びつく抗体があると、測定法によってFT4・FT3が実際より高く、または低く出ることがあります

 干渉が疑われるときは、別の測定法で測り直す、あるいは検査室で血液に特別な処理をしてから測り直すことで確かめます。干渉の種類によって確認の方法が異なるため、検査を行った施設の検査室と連携して判断します。検査値が高いのに症状がない、治療をしても数値が動かない、といった食い違いが手がかりになります。FT4が高いのにTSHが低くならない場合の考え方は、だるい・疲れやすいのは甲状腺?で説明しています。

甲状腺ホルモン薬を飲んだ直後は、値が一時的に高めに出ます

 甲状腺ホルモン薬(チラーヂンSなど)を飲むと、血液中のFT4は数時間のうちに一時的に上がり、そのあと元の水準に戻ります。米国甲状腺学会の甲状腺機能低下症治療ガイドライン(2014年)には、内服後約4時間にFT4が一時的に約15%高くなる、と記載されています。そのため、飲んだ直後に採血すると、ふだんより高めの値が出ます。

 だからといって、採血のために飲み方を変える必要はありません。医師から別の指示を受けている場合を除き、採血に合わせて中止したり、飲む時間を変えたりせず、普段どおりに服用してください。受診の前がいつもの服用時刻でない場合に、採血のために先に飲んでいただく必要もありません。飲んだ時刻をお知らせいただければ、その影響を考えに入れて結果を読みます。飲み忘れた日や、いつもと違う時間に飲まれた場合も、同じようにお知らせください。

 また、薬の量を変えた直後は、TSHがまだ新しい量に追いついていません。変更後しばらくたってから測り直すのは、このためです。受診当日の検査の受け方は甲状腺の検査案内にまとめています。

前の病院と値が違う理由は、測定法や基準範囲だけではありません

 同じ日の血液を測っても、施設によって結果は少し違います。日本内科学会雑誌の総説では、TSHは分子のかたちが一種類ではなく、測定に使われる試薬も多様であるため、以前から施設間の検査結果のばらつきが指摘されている、とされています。甲状腺ホルモン(FT4)は、施設や試薬によるばらつきがTSHより大きいと報告されています。

 この差を小さくするため、日本ではTSH検査の補正(ハーモナイゼーション)が進められていますが、差が完全になくなったわけではありません。ここから言えることは2つです。第一に、結果票に印字された基準範囲と照らして見ることです。基準範囲そのものが施設ごとに設定されているためです。第二に、可能であれば同じ施設・同じ条件で経過を追うことです。数値の変化が体の変化なのか、測り方の違いなのかを切り分けやすくなります。

 前の結果が誤っていたとは限りません。測定法や基準範囲の違いに加えて、病状の変化、治療、服薬や採血の時刻なども関係します。以前の結果票をお持ちいただき、検査日・服薬状況・経過をあわせて確認します。ハーモナイゼーションの経緯は健診でTSHの異常を指摘された方へで説明しています。

検査値と症状が合わないとき、確かめる順番

 検査値と症状が合わないときは、おおむね次の点を確認します。どの順に、どこまで調べるかは、検査値の組み合わせと臨床経過によって異なります。

  1. 薬とサプリメント … 使っているものを一つずつ確認します
  2. 体の状態 … 妊娠、最近の病気、回復の途中かどうか
  3. 採血の時刻 … 甲状腺ホルモン薬を飲んだ時刻との関係
  4. 測定への干渉 … 上の3つで説明がつかないときに考えます

 そのうえで、期間をおいて測り直す、必要に応じて測定法を変えることで、本当の状態を確かめます。時間をおくこと自体が、判断の材料になります。

 当院では、甲状腺ホルモン(TSH・FT4・FT3)と甲状腺自己抗体を院内で測定しており、採血後約1時間で結果をご説明します。超音波検査(エコー)も院内で行っており、痛みはなく、所要時間は約15分です。甲状腺そのものの病気も疑われる場合は、必要に応じて超音波検査を行います。超音波検査は、測定への干渉を直接確認する検査ではありません。

受診のときにお持ちいただきたいもの

 検査値のずれを見抜くには、検査の値そのものよりも、まわりの情報が役に立ちます。甲状腺を診療している医療機関を受診されるときは、次のものをお持ちください。

  • これまでの検査結果の記録(健診の結果票、他の医療機関の結果票)。複数回分があれば、数値の動きが分かります
  • お薬手帳、または処方されている薬が分かるもの
  • サプリメントの現物、またはパッケージの写真。成分名と含まれる量が確認できます
  • 甲状腺の薬を飲んでおられる方は、当日に飲んだ時刻
  • 妊娠中・妊娠の可能性がある方は、その旨と週数

 当院の受診の流れとお持ちいただくものは受診案内に、どの科を受診すればよいかは甲状腺の不調は何科を受診すればよいかにまとめています。

よくあるご質問

Q.ビオチンは食事からも摂りますが、影響しますか。

 注意喚起の対象になっているのは、サプリメントや治療薬による高用量の摂取です。食事に含まれるビオチンは、注意喚起の対象になっていません。海外から購入したサプリメントには1錠あたりの含有量が非常に多いものがあると指摘されていますので、製品名と含有量が分かるものをお持ちください。

Q.検査の前に、サプリメントをやめたほうがよいですか。

 自己判断で中止せず、医療機関の指示に従ってください。中止が必要かどうか、必要な場合にどのくらい前から中止するかは、成分と量、検査の目的によって変わります。まず、使っているものをそのままお知らせください。

Q.「検査値がおかしい」と言われました。検査が信用できないということですか。

 いいえ。測定そのものへの干渉はまれです。また、妊娠中の方や甲状腺ホルモン薬を飲んでおられる方で値が動くのは、検査が誤っているのではなく、その時点の条件を正しく測っているためです。「おかしい」と言われたのは、数値と症状、あるいは数値どうしの組み合わせに食い違いがあり、確かめる必要がある、という意味です。時間をおいた再検査や、別の測定法での確認によって、原因を絞れる場合があります。ただし、一度の追加検査で必ず原因が明らかになるとは限りません。検査値と症状の経過をあわせて判断します。

Q.「マクロTSH」と言われました。治療は必要ですか。

 マクロTSHは、TSHが抗体と結びついて大きな塊になったもので、働きは弱いとされています。そのため、TSHの数値が高くても、甲状腺ホルモン薬が必要とは限りません。マクロTSHの有無を追加検査で検討し、FT4、症状、経過をあわせて、治療が必要かを医師が判断します。

出典

  • 日本小児科学会ほか「ビオチン大量内服による検査値異常に係る注意喚起」(2020年)
  • 甲状腺疾患診断ガイドライン2024.一般社団法人日本甲状腺学会(甲状腺機能低下症の診断ガイドライン・中枢性甲状腺機能低下症の付記)
  • 小飼貴彦、田中光昭、菱沼昭.甲状腺検査の標準化と課題.日本内科学会雑誌 2024;113(4):662-667
  • 石井角保.甲状腺ホルモン不応症:診断と治療.日本内科学会雑誌 2024;113(4):648-653
  • 中田瞳美、阿部正樹、俵木美幸.マクロTSH血症により複数の測定試薬でTSH偽高値を呈した症例の検討.医学検査 2024;73(1):174-179
  • Hattori N, Ishihara T, Yamagami K, Shimatsu A. Macro TSH in patients with subclinical hypothyroidism. Clin Endocrinol (Oxf) 2015;83(6):923-930
  • Nishihara E, Fukata S, Imamura C, et al. Prevalence and clinical characteristics of macro-TSH in patients with subclinical hypothyroidism. Thyroid 2026;36(7):721-728
  • Hattori N, Ishihara T, Shimatsu A. Variability in the detection of macro TSH in different immunoassay systems. Eur J Endocrinol 2016;174(1):9-15
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  • Jonklaas J, et al. Guidelines for the treatment of hypothyroidism: prepared by the American Thyroid Association Task Force on Thyroid Hormone Replacement. Thyroid 2014;24(12):1670-1751

このページの執筆者

窪田純久(くぼたクリニック院長・医学博士/日本甲状腺学会認定甲状腺専門医・評議員)
窪田創大(医師・医学博士/日本甲状腺学会認定甲状腺専門医、日本内分泌学会専門医・指導医、日本糖尿病学会専門医)

院長・窪田純久は、甲状腺を専門としない医師に向けた専門書『やさしく解説 甲状腺疾患の診断と治療』(南江堂、改訂第2版・2025年)の著者です。日本甲状腺学会において、バセドウ病薬物治療・バセドウ病眼症診療・甲状腺結節診療・潜在性甲状腺機能低下症の各診療ガイドライン作成委員を務めています。

  • 執筆した医師の経歴などがある医師紹介はこちら
  • 院長自身による日本語の解説をつけた英文論文18編はこちら

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