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TRAbとは

TRAb(TSH受容体抗体)について、はじめに知っておいていただきたい点は次の3つです。

  • TRAbは、TSH受容体に結合する自己抗体を調べる血液検査です。バセドウ病の診断と、治療の経過をみる目安に使います。抗体が実際に甲状腺を刺激する作用を調べる検査がTSAbです
  • 測定法は改良を重ねてきたため、施設や時期によって、数字をそのまま比べられないことがあります
  • 値の高さが、そのまま症状の重さを意味するわけではありません。治療の強さは、甲状腺ホルモンの値と症状で決めます

TRAbは、TSH受容体に結合する抗体を測る検査です

 甲状腺は、脳の下垂体から出るTSH(甲状腺刺激ホルモン)を受け取って、甲状腺ホルモンをつくります。TSHを受け取る鍵穴にあたる部分をTSH受容体といいます。

 バセドウ病では、免疫の異常によって、このTSH受容体に結合する自己抗体がつくられます。バセドウ病に主に関わるのは、TSHの代わりに鍵穴を押し続ける刺激型の抗体で、そのため甲状腺は指令がなくてもホルモンをつくり続けます。これらTSH受容体に結合する抗体をまとめてTSH受容体抗体(TRAb)といいます。ただし、TRAbの結合測定だけでは、刺激型と阻害型を区別できません。

 TSH受容体に結合する抗体には、甲状腺を刺激する刺激型のほか、はたらきを抑える阻害型、どちらの作用も持たない型があります。バセドウ病で検出される抗体はほとんどが刺激型です。まれに阻害型が主体となり、甲状腺の働きが低下する方もいます。

 検査の名前として使われるTRAbとTSAbは、TSH受容体に対する抗体を、異なる原理で評価する検査です。

  • TRAb… 抗体がTSH受容体に結合しているかを調べます。刺激型と阻害型を区別しません。結果が短時間で出るため、診断と経過観察の中心になっています
  • TSAb(甲状腺刺激抗体)… 抗体が甲状腺の細胞を実際に刺激しているかを調べます。TRAbが陰性のときや、治療中に弱い陽性が続いて判断に迷うときに補います

 バセドウ病そのものについてはバセドウ病とはで説明しています。

測定法には世代があり、数字をそのまま比べられないことがあります

 TRAbの測定法は、1980年代に日本で保険適用になってから、改良が重ねられてきました。バセドウ病治療ガイドライン2019では、第1世代・第2世代・第3世代の3つに整理されています。

  • 第1世代… 放射性物質で目印をつけたTSHを使い、抗体がどれだけTSHの結合を邪魔するかを阻害率(%)で表しました
  • 第2世代… ヒトのTSH受容体を使い、途中で洗浄する工程を加えて感度を上げました。結果は国際的な基準に合わせた濃度(IU/L)で表します
  • 第3世代… TSHの代わりに、バセドウ病の患者さんに由来する刺激型の抗体を使います。全自動の機器で短時間に測定でき、現在広く用いられています

 世代が違うと、単位も、陽性と判定する基準も異なります。「%」で書かれた昔の結果と「IU/L」で書かれた今の結果を、数字のまま並べて比べることはできません。まれに、世代によって陽性・陰性の判定そのものが食い違う例もあると、同ガイドラインに記載されています。TSAbについても、2023年に測定法が変わっています。

 このため、以前に他の医療機関で受けた検査の結果票があれば、お持ちください。単位と基準範囲が書かれていれば、どの方法で測られた値かを推定し、いまの結果と照らして読むことができます。治療の経過を追う間は、可能であれば同じ施設で同じ方法で測り続けると、変化が読み取りやすくなります。施設によって検査値が少し違う理由や、値が症状や経過と合わない場合については甲状腺の検査値と症状・経過が合わないときで、検査全体の案内は甲状腺の検査案内でまとめています。

 当院ではTRAbを第3世代の全自動の方法で院内で測定しており、採血後約1時間で結果をご説明します。院長・窪田純久は、TRAbの測定法についての検討を報告しています(和文の著書・論文)。

抗体の値だけで治療の強さは決まりません

 結果票のTRAbの値が高いと、それだけ病気が重いのではないかとご心配になる方がいらっしゃいます。

 バセドウ病治療ガイドライン2019には、治療前のバセドウ病では、甲状腺刺激抗体(TSAb)の値と甲状腺ホルモンの値との間にきれいな相関がみられない、と記載されています。血液中の甲状腺ホルモンの量は、抗体の強さだけでなく、甲状腺の大きさや反応のしやすさにも左右されるためです。このため、抗体の値だけを見て治療の強さを決めることはしません。

 症状の程度と治療の強さは、TSH・FT4・FT3(甲状腺の働き)と、動悸や体重減少などの症状から判断します。TRAbは、甲状腺ホルモンが多い原因を見分け、治療の経過や薬をやめる時期を考えるときの目安のひとつとして使う検査です。

 一方で、役に立たない検査という意味ではありません。同ガイドラインは、TRAbがバセドウ病の診断、活動性の評価、薬を中止するときの見通し、妊娠中の赤ちゃんへの影響の評価に用いられるとしています。以下、場面ごとに説明します。

診断では、甲状腺ホルモンが多い原因を見分ける手がかりになります

 血液検査で甲状腺ホルモンが多いと分かったとき、それが甲状腺の「つくりすぎ」なのか、「もれ出し」なのかを見分ける必要があります。つくりすぎの代表がバセドウ病、もれ出しの代表が無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎で、治療の考え方が異なります。

 「甲状腺疾患診断ガイドライン2024」では、バセドウ病の検査所見として「TRAb陽性、またはTSAb陽性」が挙げられています。甲状腺ホルモンが多く、TSHが低く、TRAbが陽性であれば、バセドウ病と考える有力な根拠になります。

 もれ出しによる甲状腺炎では通常この抗体は陰性ですが、同ガイドラインには、無痛性甲状腺炎でも抗体が弱く陽性を示すことがあると記載されています。抗体だけで決めず、甲状腺ホルモンの値、超音波検査で見た血流、そして経過とあわせて判断します。見分け方の全体は甲状腺機能亢進症とはでまとめています。

 妊娠の前半には、胎盤のホルモンが甲状腺を刺激して一時的にホルモンが多くなる方がいます。また、出産後に起こる甲状腺ホルモンの上昇は、もれ出しによるものが多くを占めます。バセドウ病治療ガイドライン2019では、こうした時期にもTRAbを調べてバセドウ病と見分けるとされています。

 TRAbが陰性だったときの考え方は、抗体が陰性でも甲状腺の病気のことがありますで説明しています。陰性であることは、甲状腺の病気がないことを意味しません。

治療中は、経過をみる目安のひとつになります

 抗甲状腺薬で治療を始めると、多くの方ではTRAbが時間とともに下がっていきます。ただし、下がり方には個人差があり、なかなか下がらない方や、いったん下がったあとに再び上がる方もいます。

 薬の量は、TSH・FT4・FT3と症状から決めます。TRAbは、病気の活動性がどの程度おさまってきたか、薬をやめる時期を考えてよいかの目安として、間隔をあけて確認します。

 TRAbが陰性になることは、薬をやめるための必須条件ではありません。バセドウ病治療ガイドライン2019では、薬をやめる時点でTRAbが陰性の方のほうが、その後に薬を再開せずに済む割合は高いとされています。ただし、陰性であっても再発する方が30%前後いると報告されており、TRAbだけで個々の方の再発を予測することは難しいとされています。また、最小量の薬を6か月以上続けている場合には、TRAbが陰性でも陽性でも薬を再開せずに済む割合に差は認められないとされ、陰性になるのを待って休薬する必要はないとされています。

 薬をやめる時期は、TRAbだけでなく、薬の量、その量を続けた期間、甲状腺の働き、甲状腺の大きさ、症状、これまでの経過をあわせて決めます。詳しくはバセドウ病の薬をやめる目安と中止後の経過をご覧ください。

薬をやめたあとは、一時的な上昇と再発の見極めに使います

 薬をやめたあとに甲状腺の検査値が悪くなると、多くの方は再発したと考えます。しかし、薬を再開しないまま自然に正常化することがあります。当院院長らは、抗甲状腺薬を中止したあとにみられるこの一過性の変化を研究で報告しています。

 当院院長らが、薬をやめたあとに一時的な変化がみられた22人をまとめた報告では、この時期にTRAb(TBII)が陽性になった方は3人でした。多くの方はTRAbが陰性のままで、甲状腺の検査値だけが一時的に動いています。また、放射性ヨウ素の摂取率を測った6人のうち4人は低くなく、無痛性甲状腺炎とは考えにくい結果でした(残る2人は無痛性甲状腺炎と診断されています)。

 つまり、薬をやめたあとにTRAbが上がっても、それだけで再発とは決まりません。反対に、TRAbが上がっていないから一時的な変化だとも言えません。時間をおいて検査値がどう動くかをみて判断します。

 一時的な変化を再発と判断すると、必要のない治療の再開につながる可能性があります。1回の検査だけで決めず、甲状腺ホルモン、TRAb、症状、時間とともに数値がどう動くかを確認します。

 どのくらいの方に一時的な変化がみられたかを含め、やめたあとの検査の間隔と経過はバセドウ病の薬をやめる目安と中止後の経過で説明しています。院長の論文と解説は論文と院長による解説に掲載しています。

妊娠中は、母体の抗体が胎盤を通って赤ちゃんに移ります

 TRAbは抗体(IgG)であるため、妊娠の後半には胎盤を通って赤ちゃんに移ります。バセドウ病に関わる刺激型の抗体が胎盤を通ると、赤ちゃんの甲状腺が刺激されて、胎児や新生児の甲状腺ホルモンが多くなる場合があります。バセドウ病の方が妊娠中にTRAbを測るのは、このためです。

 バセドウ病治療ガイドライン2019では、バセドウ病の方が妊娠した場合、初診時にTRAbを測定し、陽性であれば妊娠18〜22週に再検し、さらに陽性であれば妊娠後期に再検するとされています。多くの方では妊娠が進むにつれてTRAbは下がりますが、下がらない方や、後期に上がる方もいます。

 注意が必要なのは、手術やアイソトープ治療を受けたあとの妊娠です。同ガイドラインには、こうした方では母体の甲状腺機能が正常または低下していてもTRAbが高いことがあり、とくにアイソトープ治療後はTRAbが長く高い状態になりやすいと記載されています。母体に症状がなくても、赤ちゃんには影響が及ぶ可能性があるため、妊娠20週までにTRAbを確認します。

 当院の院長・窪田純久は、アイソトープ治療後にTRAbが高く、抗甲状腺薬が副作用で使えなかった妊婦の方に、ヨウ素剤と甲状腺ホルモン剤を用いて妊娠中の甲状腺機能を管理した症例を報告しています(Thyroid 2005)。妊娠の経過は保たれましたが、出生直後には一過性の新生児甲状腺機能亢進症がみられました。院長らは、ヨウ素剤を使わなければ胎児期にも甲状腺機能亢進症を発症した可能性があると考察しています。これは1例の症例報告であり、一般的な治療法として推奨するものではありません。母体の甲状腺機能が落ち着いていてもTRAbを確認する意味を示す一例として紹介しています(論文と院長による解説)。

 TRAbが高い場合には、産科や新生児科と連携して、胎児と出産後の赤ちゃんの確認を進めます。妊娠中の薬の使い方や出産後の経過は妊娠と甲状腺の病気でまとめています。

TPO抗体・サイログロブリン抗体との違い

 甲状腺の自己抗体には、TRAbのほかにTPOAb(抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体)とTgAb(抗サイログロブリン抗体)があります。これらは甲状腺の中のたんぱく質に向かう抗体で、橋本病(慢性甲状腺炎)の手がかりになります。TRAbのように甲状腺を刺激する作用はなく、意味するものが異なります。2つの抗体そのものと、数値の読み方はTPO抗体・Tg抗体とはにまとめています。

 バセドウ病の方でも、これらの抗体は珍しくありません。国内の1つの医療機関で、5種類の測定キットを比べた報告では、バセドウ病の方でも、TPO抗体・サイログロブリン抗体はそれぞれ5〜8割で陽性でした(測定キットによって幅があります)。陽性であることだけで橋本病を合併していると決まるわけではなく、経過の中で参考にします。健診などで「甲状腺の抗体が陽性」と言われた方の考え方は、TPO抗体・サイログロブリン抗体を指摘されたらで説明しています。

よくあるご質問

Q.TRAbが陽性なら、バセドウ病で確定ですか。

 多くの場合、バセドウ病と考える有力な根拠になります。ただし、無痛性甲状腺炎でも抗体が弱く陽性を示すことがあり、TRAbの結果だけで決めることはしません。甲状腺ホルモンの値、超音波検査の所見、経過とあわせて判断します。

Q.前の病院と数字が違います。どちらが正しいのですか。

 どちらも正しい可能性があります。TRAbの測定法には世代があり、単位や陽性の基準が異なるため、施設や時期が違えば数字は変わります。また、測定法の違いだけでなく、治療経過によってTRAb自体が変化している場合もあります。以前の結果票をお持ちいただければ、単位と基準範囲から、いまの結果と照らして読むことができます。

Q.治療でTRAbが陰性になれば、薬をやめられますか。

 TRAbが陰性であることは、薬をやめる条件のひとつにはなりますが、必須条件ではありません。陰性でも再発する方が30%前後いる一方、最小量の薬を6か月以上続けている場合はTRAbの陰性・陽性で差がないとされています。薬の量、続けた期間、甲状腺の働きと大きさ、経過をあわせて判断します。

Q.妊娠中はどのくらいの間隔でTRAbを測りますか。

 バセドウ病治療ガイドライン2019では、初診時に測定し、陽性なら妊娠18〜22週、さらに陽性なら妊娠後期に再検するとされています。実際の時期は、治療の経過や妊娠の状況によって担当の医師が決めます。

出典

このページの執筆者

窪田純久(くぼたクリニック院長・医学博士/日本甲状腺学会認定甲状腺専門医・評議員)
窪田創大(医師・医学博士/日本甲状腺学会認定甲状腺専門医、日本内分泌学会認定内分泌代謝科専門医・指導医、日本糖尿病学会認定糖尿病専門医)

院長・窪田純久は「バセドウ病治療ガイドライン2019」の作成委員を務めました。TRAbの測定法についての検討を報告しています(和文の著書・論文)。また、抗甲状腺薬を中止した後に甲状腺の検査値が一時的に悪化しても、薬を再開せず正常化する例があることを報告し、その後の前向き研究では、110人のうち68人が追跡期間中に薬を再開せずに済み、その68人中28人(41.2%)に一過性の変化がみられました(論文と院長による解説)。

院長は、甲状腺を専門としない医師に向けた専門書『やさしく解説 甲状腺疾患の診断と治療』(南江堂、改訂第2版・2025年)も執筆しています。

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  • 院長自身による日本語の解説をつけた英文論文18編はこちら

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