健診でTSHの異常を指摘されたら?
健康診断や人間ドックでTSHの異常を指摘された方に、はじめに知っておいていただきたい点は次の3つです。
- TSHは、甲状腺機能の異常を鋭敏に映す検査です。健診や人間ドックの甲状腺の検査項目としてTSHが使われているのはそのためです
- 症状がなくても、一度は甲状腺機能の再検査を受けることをおすすめします。自覚症状のないまま数値だけが動く「潜在性」の異常があるためです
- 検査値は、施設や検査試薬によって少し違うことがあります。可能であれば同じ施設で経過を追い、施設が変わるときは以前の結果票をお持ちください
TSHとはどんな検査か
TSH(甲状腺刺激ホルモン)は、甲状腺ではなく、脳の下垂体から分泌されるホルモンです。甲状腺に向けて「ホルモンをつくりなさい」と指令を出す役割をしています。
甲状腺ホルモンが足りなくなると、下垂体は指令を強めるためTSHが高くなります。反対に甲状腺ホルモンが多すぎると、指令を弱めるためTSHは低くなります。TSHと甲状腺ホルモンは、シーソーのように逆方向に動く関係です。
TSHは甲状腺機能異常を最も鋭敏に示すとされています。甲状腺ホルモン(FT4)がまだ基準範囲内にあるうちから、TSHが先に動くことがあるためです。健診で「TSHだけが引っかかった」という方が多いのは、このためです。
なお、この関係が成り立つのは、脳(視床下部・下垂体)と甲状腺の間のやりとりが保たれている場合です。下垂体そのものに原因がある場合などは、TSHだけで判断できないこともあります。
| TSH | FT4 | 考えられる状態 |
|---|---|---|
| 高い | 低い | 明らかな甲状腺機能低下症 |
| 高い | 正常 | 潜在性甲状腺機能低下症 |
| 低い | 高い | 甲状腺中毒症 |
| 低い | 正常 | 潜在性甲状腺機能亢進症など |
これは一般的な見方です。下垂体の病気、妊娠、服用している薬、重い全身の病気などでは、別の組み合わせになることがあります。また、FT4が正常でもFT3だけが高い場合があるため、TSHが低いときはFT3もあわせて確認します。潜在性の異常かどうかは、その状態が続いているかを確かめたうえで判断します。
「TSHが高い」と言われたら
TSHが高いときは、甲状腺の働きが低下しているか、低下し始めている可能性があります。甲状腺ホルモン(FT4)をあわせて確認し、甲状腺機能低下症かどうかを判断します。
原因として最も多いのは、橋本病(慢性甲状腺炎)です。だるさ、寒がり、むくみ、体重増加などの症状が出ることがありますが、ゆっくり進むため、ご本人が気づかないことも少なくありません。思い当たる症状がある方は、だるい・疲れやすいのは甲状腺?もご覧ください。
ただし、TSHが高いからといって、必ず橋本病とは限りません。ヨウ素の摂りすぎ、薬の影響、甲状腺炎の回復期、一時的な体調の変化などでもTSHが高くなることがあります。そのため、健診の1回の結果だけで、病名や治療の必要性が決まるわけではありません。
また、甲状腺ホルモン(FT4)は基準範囲内で、TSHだけが高い状態が続く場合を潜在性甲状腺機能低下症といいます。自覚症状がないことが多く、健診で初めて見つかることがあります。すぐに治療が必要とは限りませんが、治療を検討するかどうかは、TSHの高さが続いているか、症状の有無、年齢、心臓の病気、妊娠の予定などをふまえて判断します。高齢の方では、わずかな上昇であれば、すぐに治療を始めずに経過をみることもあります。
甲状腺の働きが低下した状態については甲状腺機能低下症にまとめています。
「TSHが低い」と言われたら
TSHが低いときは、まず甲状腺ホルモン(FT4・FT3)をあわせて確認します。TSHが低いだけでは、甲状腺ホルモンが多いとは限らないためです。FT4やFT3が高ければ、血液中の甲状腺ホルモンが多い甲状腺中毒症です。
血液中の甲状腺ホルモンが多くなる原因には、大きく2つのタイプがあります。ひとつは、バセドウ病やプランマー病のように、甲状腺がホルモンをつくりすぎる状態で、これを甲状腺機能亢進症といいます。動悸、汗が多い、手のふるえ、体重減少などの症状があれば、バセドウ病の可能性が高まります。
もうひとつは、無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎のように、甲状腺に蓄えられていたホルモンが一時的に漏れ出すタイプです。甲状腺ホルモンが多い時期は一時的なことが多いものの、症状や炎症に対する治療を行う場合があります。これらは治療方針がまったく異なるため、血液検査と超音波検査で区別することが大切です。判断が難しい場合や甲状腺に結節(しこり)がある場合には、甲状腺シンチグラフィという検査を行うことがあります。
また、甲状腺ホルモン(FT4・FT3)は基準範囲内で、TSHだけが低い状態が続く場合を潜在性甲状腺機能亢進症といいます。妊娠や服用中の薬、体調などの影響で一時的にTSHが低くなることもあるため、1回の検査だけでは判断しません。こちらも自覚症状がないことが多く、すぐに治療が必要とは限りません。経過を確認しながら、原因と対応を判断します。
症状がなくても再検査が必要な理由
甲状腺の病気は、決して珍しいものではありません。代表的な病気であるバセドウ病・橋本病・甲状腺結節の頻度を合計すると約10%に達するとされています。ただし、この約10%には甲状腺のしこり(結節)も含まれています。しこりがあること自体は、甲状腺の働きの異常を意味しません。
そして、健診で見つかる甲状腺機能の異常には、自覚症状のない「潜在性」のものが多く含まれます。同じ総説では、潜在性の甲状腺機能異常は患者数が多いことも指摘されています。症状がないからといって、異常がないことにはなりません。潜在性の異常には、自然に正常化するものや、長い間ほとんど変わらないものもありますが、一部では明らかな甲状腺機能低下症や甲状腺中毒症へ進むことがあります。
再検査を受けると、その時点で治療が必要な状態なのか、経過観察でよいのかが分かります。経過観察でよいと分かる場合も少なくありません。まず現在の状態を確認しておくことに意味があります。
健診と再検査で数値が違うことがある理由
「健診ではTSHが高かったのに、再検査では基準範囲内だった」ということがあります。おもに次の3つの理由があります。
1.体の側で数値が変動するため
TSHは体調や測定の時期によっても動きます。そのため、1回の検査だけでは判断せず、必要に応じて数週間から数か月あけて再検査し、異常が続いているかを確かめます。
2.薬やサプリメントが検査に影響することがあるため
特に、美容や髪・爪のために高用量のビオチンを含むサプリメントを使っていると、一部の検査方法では、TSHが実際より低く、甲状腺ホルモン(FT4・FT3)が実際より高く測定されることがあります。処方薬・市販薬・サプリメントを使っている場合は、受診の際にお知らせください。採血の前に中止する必要があるかどうかは、自己判断せず、医療機関の指示に従ってください。
検査値が症状や経過と合わないときに何を考えるかは甲状腺の検査値と症状・経過が合わないときでまとめています。
3.施設や検査試薬によって測定値が少し違うため
TSH・FT4検査については、以前から施設間の検査結果のばらつきが指摘されているとされています。TSHは分子のかたちが一種類ではなく、測定に使われる試薬もさまざまであるため、同じ血液を測っても、施設によって結果が少し違うことがあるのです。こうした施設間の差は、健診の結果と医療機関の結果をやり取りするときの食い違いのもとになりうる、とも指摘されています。
この差を小さくするため、日本では、どの試薬でも同じ検体からできるだけ同じ結果が得られるように補正する取り組み(ハーモナイゼーション)が進められ、2021年4月からは、補正された検査値を実際の診療で利用できるようになっています。この補正には、国内でTSH検査試薬を販売するすべてのメーカーが参加し、日本人の健常者の血清で効果が確かめられたうえで導入されました。2024年時点で、この仕組みが実際の診療に導入されているのは、今のところ日本のみとされています。それでも、検査値の差が完全になくなったわけではありません。なお、甲状腺ホルモン(FT4)の検査は標準化がまだ進められている段階で、施設や試薬による差がTSHより大きいと報告されています。これは「検査があてにならない」という意味ではありません。
ここから言えることは2つです。第一に、結果票に印字された基準範囲と照らして判断することです。施設や試薬によって、基準範囲そのものが少し違うためです。第二に、可能であれば同じ施設・同じ条件で経過を追うことです。数値の変化が、体の変化なのか、測り方の違いなのかを切り分けやすくなります。
健診先や通院先が変わる場合も含め、受診の際は以前の結果票をお持ちください。健診時の数値が、その後の比較の起点になります。
再検査ではどんな検査をするのか
血液検査では、TSHと甲状腺ホルモン(FT4・FT3)をあらためて測定し、異常が続いているかを確認します。FT4・FT3は、たんぱく質と結合していない、実際に働ける形の甲状腺ホルモンです。あわせて、TSHが高い場合は橋本病の手がかりになる自己抗体(TPOAb・TgAb)を、TSHが低い場合はバセドウ病の手がかりになる自己抗体(TRAb)を調べます。実際に調べる項目は、健診の結果、症状、これまでの経過をふまえて決めます。
抗体が陽性と言われたときはTPO抗体・サイログロブリン抗体を指摘されたら、陰性と言われたときは抗体が陰性でも甲状腺の病気のことがありますをご覧ください。
超音波検査(エコー)は、甲状腺の大きさや腫れ、しこりの有無、内部の血流を確認する必要がある場合に行います。痛みはなく、所要時間は約15分です。
当院では、問診と診察のうえで必要な検査を当日に行っています。TSH・FT4・FT3と甲状腺自己抗体を院内で測定でき、採血後約1時間で結果をご説明します。健診で指摘された異常が続いているのかどうかを、その日のうちにお伝えできます。
どの科を受診すればよいか迷われる場合は、甲状腺の不調は何科を受診すればよいかでくわしく説明しています。
それぞれの検査で何を調べるのか、どの検査がいつ必要になるのかは、甲状腺の検査案内でまとめています。
妊娠を希望される方・妊娠中の方へ
妊娠を希望される時期や妊娠中は、甲状腺機能の考え方が一般の場合と変わります。お母さんの甲状腺ホルモンが、赤ちゃんの発育にも関わるためです。
妊娠の初期には、妊娠に伴うホルモン(hCG)のはたらきで、TSHが生理的に低くなることがあります。そのため、妊娠していない方の基準範囲だけで、異常かどうかを判断することはできません。受診の際は、妊娠週数もあわせてお知らせください。
日本甲状腺学会の「潜在性甲状腺機能異常症の診断と治療の手引き(妊娠編)」(2025年)では、妊娠を希望される方や妊娠中の方の甲状腺機能の評価と治療の考え方が、一般の場合とは分けて整理されています。健診や不妊治療の検査でTSHの異常を指摘された方で、妊娠のご予定がある場合は、その旨をあわせてご相談ください。
妊娠中・授乳中の甲状腺の管理については、妊娠と甲状腺で説明しています。
よくあるご質問
基準範囲は、どの病院でも同じですか
少し違うことがあります。検査に使う試薬や機器が施設によって異なり、基準範囲そのものも施設ごとに設定されているためです。ご自身の結果は、その結果票に印字された基準範囲と照らしてご覧ください。
健診でTSHの異常を指摘されました。何科を受診すればよいですか
主な相談先は、内分泌内科・甲状腺内科です。お近くにない場合は、一般内科でも甲状腺機能の血液検査を受けられることがあります。詳しくは甲状腺の不調は何科を受診すればよいかをご覧ください。
再検査はいつ受ければよいですか
再検査の時期は、TSHの値だけでなく、甲状腺ホルモン(FT4・FT3)の状態、症状の有無、妊娠の予定、服用している薬などによって変わります。TSHだけの軽い異常で症状がない場合は、数週間から数か月あけて確認することがあります。一方、甲状腺ホルモンにも異常がある場合や、症状がある場合、妊娠中・妊娠を希望されている場合は、より短い間隔での確認が必要になることがあります。健診の結果票をお持ちのうえ、受診先でご確認ください。
症状がまったくないのに、受診する必要はありますか
はい。健診で見つかる甲状腺機能の異常には、自覚症状のない「潜在性」のものが多く含まれます。一度再検査を受けて、治療が必要な状態か、経過観察でよいのかを確認しておくことをおすすめします。
放っておくとどうなりますか
原因によって異なります。一時的に数値が変化して、自然に戻ることもあれば、長い間ほとんど変わらないこともあります。一方で、一部では明らかな甲状腺機能低下症や甲状腺中毒症へ進むことがあるため、まず再検査で原因と経過を確認します。また、妊娠を考える時期には、それまで経過観察でよかった軽い異常が、治療を検討する対象になることがあります。
健診の結果票は持って行ったほうがよいですか
はい、ぜひお持ちください。健診時の数値と再検査の数値を並べて見ることで、異常が続いているのか、変動の範囲なのかを判断しやすくなります。
受診について
次のような場合は、甲状腺を診療している医療機関へご相談ください。
- 健康診断や人間ドックで、甲状腺機能検査(TSH・FT4など)の異常を指摘された
- 以前に指摘されたが、再検査を受けないままになっている
- 甲状腺の病気の治療中で、転居などにより通院先を探している
- 家族に甲状腺の病気の方がいる
当院では、初診時に問診と診察を行い、必要に応じて当日に血液検査と超音波検査を行います。血液検査は採血後約1時間で結果をご説明できるため、結果を聞くために再度ご来院いただく必要はありません。精密検査(穿刺吸引細胞診など)や専門的な治療が必要と判断される場合は、隈病院をご紹介しています。
年代や状況ごとの注意点は年代・ライフステージ別にみる甲状腺の病気にまとめています。
出典
- 小飼貴彦、田中光昭、菱沼昭.甲状腺検査の標準化と課題.日本内科学会雑誌 2024;113(4):662-667
- 山田早耶香、堀口和彦、山田正信.潜在性甲状腺機能異常症の診断と治療の課題.日本内科学会雑誌 2024;113(4):654-661
- 赤水尚史.甲状腺疾患の臨床重要課題.日本内科学会雑誌 2024;113(4):611-613
- 日本甲状腺学会「甲状腺疾患診断ガイドライン2024」
- 日本甲状腺学会臨床重要課題「潜在性甲状腺機能異常症の診断と治療の手引き(妊娠編)」(2025年5月27日)
- 日本小児科学会ほか「ビオチン大量内服による検査値異常に係る注意喚起」(2020年)
