バセドウ病について
バセドウ病について、はじめに知っておいていただきたい点は次の3つです。
- バセドウ病は甲状腺ホルモンが過剰になる病気ですが、薬で甲状腺の働きを抑えれば、通常の生活を送れます
- 治療の中心は抗甲状腺薬です。飲み始めから2〜3か月間は副作用が出やすいため、定期的な血液検査で確認しながら進めます
- 症状がなくなっても、病気が治ったとは限りません。自己判断で薬や通院をやめないことが、治療で最も大切な約束です
バセドウ病とは
バセドウ病は、免疫の異常によってつくられたTSH受容体抗体が甲状腺を刺激し、甲状腺ホルモンを過剰につくらせる病気です。甲状腺がホルモンをつくりすぎる状態を甲状腺機能亢進症といい、その結果、血液中の甲状腺ホルモンが過剰になった状態(甲状腺中毒症)が起こります。
20〜40代の女性に多くみられますが、男性や高齢の方にも起こります。治療によって甲状腺ホルモンが正常に保たれていれば、仕事や運動を含め、通常の生活を送れます。
甲状腺ホルモンが多くなる原因はバセドウ病だけではありません。原因の見分け方は、甲状腺機能亢進症とはでまとめています。
症状
甲状腺ホルモンは、全身の代謝を高めるホルモンです。過剰になると、次のような症状が現れます。
- 心臓がどきどきする(動悸)、脈が速くなる
- 汗をたくさんかく、暑がりになる
- 手がふるえる
- 食欲があるのに体重が減る
- 疲れやすい、だるい
- イライラする、落ち着かない、眠れない
- 便の回数が増える
若い人では、食欲が増して体重がむしろ増えることもあります。甲状腺が大きくなることが多いのですが、目立たないこともあります。
また、バセドウ病では、まぶたの腫れや眼球突出などの目の症状(甲状腺眼症)が起こることがあります。軽い変化まで含めると25〜50%にみられますが、多くは軽症です。ご本人が気づくような、はっきりした症状が出る方は、それより少なくなります。詳しくは目の症状(甲状腺眼症)の節で説明します。
だるさ・疲れやすさは、甲状腺の病気に共通してみられる症状です。だるい・疲れやすいのは甲状腺?で詳しく説明しています。
バセドウ病・甲状腺機能亢進症は何科を受診すればよいか
バセドウ病を含む甲状腺機能亢進症の主な相談先は、内分泌内科・甲状腺内科です。お近くにこれらの診療科がない場合は、一般内科でも甲状腺機能の血液検査による初期の評価を受けられることがあります。
動悸や脈の乱れ(心房細動など)がきっかけで循環器内科を受診し、そこで甲状腺の異常が見つかることもあります。動悸・多汗・体重減少といった症状が重なっているときは、甲状腺機能の検査をおすすめします。
どの科を受診すればよいか迷われる場合は、甲状腺の不調は何科を受診すればよいかでくわしく説明しています。
原因
免疫は、ウイルスや細菌などから体を守る仕組みです。バセドウ病では、この免疫の仕組みに異常が起こり、甲状腺を刺激する自己抗体(TSH受容体抗体:TRAb)がつくられます。この抗体が甲状腺を刺激し続けることで、甲状腺ホルモンが過剰につくられます。
なぜこのような自己抗体がつくられるのかは、まだ十分にわかっていません。精神的なストレスや喫煙が、発症や治療への反応、再発に関係する可能性が指摘されています。ただし、ストレスを完全になくすことはできず、再発はご本人の努力不足によって起こるものではありません。特に喫煙は甲状腺眼症を悪化させる要因です。
診断
血液検査では、甲状腺ホルモン(FT4・FT3)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、TSH受容体抗体(TRAb)を調べます。バセドウ病では一般に、FT4・FT3が高く、TSHが低くなり、TRAbが陽性になります。
TRAbという検査そのものの見方や、測定法の世代によって数字が変わる理由はTRAbとはでまとめています。
超音波検査(エコー)では、甲状腺の腫れ、しこりの有無、内部の血流などを確認します。
無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎、プランマー病などでも血液中の甲状腺ホルモンが増えるため、区別が必要です。血液検査と超音波検査だけでは判断が難しい場合や、甲状腺に結節(しこり)がある場合には、放射性ヨウ素またはテクネチウムを用いた甲状腺シンチグラフィという検査を行うことがあります。この検査が必要と判断される場合は、隈病院をご紹介しています。
治療
バセドウ病の治療には、甲状腺の働きを抑える薬(抗甲状腺薬)による治療、放射性ヨウ素を用いたアイソトープ治療、手術の3つがあります。日本では、まず抗甲状腺薬による治療から始めることが一般的です。治療法は、年齢、甲状腺の大きさ、甲状腺眼症の有無、薬の副作用、妊娠の予定、再発歴、ご本人の希望などをふまえて選びます。
当院では抗甲状腺薬による治療を行い、アイソトープ治療や手術が必要と判断される場合は、隈病院をご紹介しています。
抗甲状腺薬による治療と副作用
抗甲状腺薬には、チアマゾール(商品名:メルカゾール)と、プロピルチオウラシル(商品名:プロパジール、チウラジール)があります。妊娠初期などの一部の場合を除き、通常はメルカゾールが第一選択です。いずれも甲状腺ホルモンの合成を抑える薬で、70年以上にわたり世界中で使われ続けています。飲んですぐに効くわけではなく、数週間かけて少しずつホルモンが下がっていきます。
一方で、副作用に注意が必要な薬でもあります。副作用の多くは、飲み始めてから2〜3か月以内に出ます。治療を始める前に、注意すべき症状と、その症状が出たときの対応について医師から説明を受けます。
- 比較的多い副作用:じんましん・かゆみなどの皮膚症状。軽い場合は、医師の判断で、かゆみを抑える薬を併用しながら治療を続けられることがあります
- まれですが命にかかわる副作用:白血球の中の顆粒球が急に減ってしまう無顆粒球症(成人で1,000人に3人程度)、重い肝障害、血管の炎症(MPO-ANCA関連血管炎)
バセドウ病治療ガイドライン2019では、発熱やのどの痛みなど無顆粒球症が疑われる症状や、黄疸(皮膚や白目が黄色くなること)、血痰、血尿が出現した際は、直ちに医療機関を受診するか、電話などで連絡することとされています。血管炎は、長期間服用した後に起こることもあります。
こうした副作用を早く見つけるため、バセドウ病治療ガイドライン2019では、飲み始めから少なくとも2か月間は、原則として2週間に1回、血液検査を行うこととされています。白血球や肝機能を確認しながら、安全に治療を進めます。
無機ヨウ素薬を併用する治療
ヨウ素は海藻などに含まれ、甲状腺ホルモンの材料になる栄養素です。ところが、薬として一度に大量に摂ると、逆に甲状腺ホルモンの産生と分泌が抑えられるという性質があります。この性質を治療に利用した薬が、無機ヨウ素薬(ヨウ化カリウム)です。
抗甲状腺薬の副作用は、薬の量が多いほど出やすいことが知られています。そこで、甲状腺ホルモンが非常に高い重症の方では、抗甲状腺薬を増やす代わりに、少なめの抗甲状腺薬に無機ヨウ素薬を併用する方法が用いられます。国内の複数の研究で、抗甲状腺薬を多く使うよりも早く甲状腺機能が改善し、副作用が少ないことが示されています。バセドウ病治療ガイドライン2019でも、重症の方の初期治療として推奨されています。
無機ヨウ素薬には、効果が現れるのが早く、副作用が極めてまれという長所があります。一方で、長く続けると効果が薄れてくることがある(エスケープ現象)ため、甲状腺の状態をみながら、減らす時期・やめる時期を判断します。
無機ヨウ素薬は、医師が治療に必要な量を決めて処方する薬です。海藻を多く食べることで代用することはできません。また、市販のヨウ素を含む製品やサプリメントを、自己判断で増やさないでください。
経過
抗甲状腺薬が効いてくると、甲状腺機能亢進の症状は多くの場合1〜2か月でおさまります。甲状腺機能検査の結果を見ながら、薬を少しずつ減らしていきます。
抗甲状腺薬をやめられるかどうかは、薬の量、その量を続けた期間、甲状腺の機能や大きさ、これまでの経過などをあわせて判断します。少量の薬で甲状腺機能が安定した状態が続いた方では、薬の中止を検討します。薬をやめる目安や、やめた後の経過についてはバセドウ病の薬をやめる目安と中止後の経過で詳しく説明しています。
甲状腺ホルモンが正常になり、動悸や不整脈などの問題がなければ、仕事や運動を含め、通常の生活を送れます。甲状腺機能がまだ安定していない時期の運動については、主治医と相談して決めます。
抗甲状腺薬による治療中は、通常の食事として海藻類を一律に制限する必要はありません。ただし、昆布製品やヨウ素を含むサプリメントなどを大量に摂り続けることは避けてください。
アイソトープ治療を受ける前には、一定期間ヨウ素を控える必要があります。具体的な食事や薬の制限については、治療を行う医療機関の指示に従ってください。
抗甲状腺薬を1年半〜2年ほど続けても薬をやめられる見通しが立たない場合には、アイソトープ治療や手術への切り替えを検討することもあります。主治医と相談して決めます。一方、少量の薬で甲状腺機能が安定し、副作用がない方では、抗甲状腺薬を長期に続けることも選択肢になります。長期に続ける場合も、甲状腺機能や副作用を定期的に確認しながら治療します。
自己判断で薬を中断しないために知っておきたい甲状腺クリーゼ
バセドウ病の治療で最も大切なことは、症状がなくなっても、自己判断で薬や通院をやめないことです。
甲状腺ホルモンが高いままの状態に、感染症・大きなけが・手術・出産などの強いストレスが重なると、甲状腺クリーゼという危険な状態が起こることがあります。高熱、激しい動悸、意識がもうろうとするなどの症状とともに、複数の臓器が同時に働かなくなり、集中治療が必要になります。
日本の全国調査では、甲状腺クリーゼは1年間におよそ250人が発症すると推定され、現在の医療でも約10%の方が命を落としています。そして、クリーゼの誘因として最も多いのが、抗甲状腺薬を不規則に飲むことや、自己判断でやめてしまうことです。また、バセドウ病と気づかれないまま経過し、クリーゼになって初めて診断される方も約2割います。
日本内科学会雑誌の総説では、「甲状腺ホルモンが多い時には、通常であれば問題ないような誘因であっても、それらが重なることで死に至るほど重篤になる可能性があります。たとえ症状がなくても自己判断で服薬や通院を中断してはいけません」と繰り返し説明することが、クリーゼの予防になるとされています。
目の症状(甲状腺眼症)
バセドウ病では、まぶたが腫れる、目が出てくる(眼球突出)、物が二重に見える(複視)といった目の症状が出ることがあります。甲状腺眼症(バセドウ病眼症)と呼ばれ、軽い変化まで含めるとバセドウ病の25〜50%にみられますが、多くは軽症です。
甲状腺眼症は、目のまわりの組織(まぶた・目を動かす筋肉・脂肪など)に、免疫の異常による炎症が起こることで生じます。甲状腺の症状とほぼ同じ時期に出ることが多いのですが、目の症状が先に出ることも、後から出ることもあります。
眼症には、炎症が進む活動期と、炎症が落ち着いて症状が固定する非活動期があります。活動期は一般に発症後6か月〜2年程度で、ステロイドなど炎症を抑える治療は、主にこの時期に行います。非活動期には、残った眼球突出や複視、まぶたの変化に対して手術を検討することがあります。専門の医療機関では、MRI検査で炎症の活動性を評価し、治療の方針を決めます。
甲状腺眼症の診断基準と治療指針では、急激な視力低下や色覚異常、急激な眼球突出、角膜の混濁、まぶたが閉じられない状態などがある場合は、至急、専門医へ紹介するとされています。1か月以上続く目の痛みや違和感、まぶたや結膜の腫れ・赤み、複視などがみられる場合も、紹介の対象とされています。これは、受診を1か月待つという意味ではありません。気になる目の症状がある場合は、期間を待たずにご相談ください。
喫煙は、眼症を悪化させることがわかっている代表的な要因です。バセドウ病治療ガイドライン2019では、すべてのバセドウ病の患者さんに禁煙が強くすすめられています。
当院では、専門的な検査や治療が必要な甲状腺眼症の方には、神戸海星病院眼科・兵庫医科大学病院眼科をご紹介しています。
妊娠を希望される方・妊娠中の方へ
バセドウ病があっても、甲状腺ホルモンを適切にコントロールすれば、多くの方は妊娠・出産ができます。
抗甲状腺薬の一つであるメルカゾールは、妊娠初期の器官形成期に服用すると、一部の先天異常のリスクが高まることが知られています。そのため、妊娠を希望される段階から、薬の種類、薬を変更する時期、手術などほかの治療の必要性を相談します。
バセドウ病治療ガイドライン2019では、メルカゾールの内服中に妊娠が判明した場合、妊娠初期であれば速やかに中止し、状態に応じて休薬またはプロピルチオウラシル(プロパジール・チウラジール)や無機ヨウ素薬に変更する、とされています。また、妊娠が分かったときの薬の使い方は、事前に患者と担当医の間で確認しておく必要がある、ともされています。日本甲状腺学会の一般向けの案内でも、メルカゾールを服用中に妊娠を確認したときは、服用をやめて、すぐに担当医に相談することとされています。
甲状腺ホルモンが高い状態のまま妊娠を続けることにも、母体と赤ちゃんへの危険があります。あらかじめ、妊娠が分かったときの対応を主治医と決めておきます。
妊娠中・授乳中の甲状腺の管理については、妊娠と甲状腺で説明しています。
よくあるご質問
バセドウ病は完治しますか
薬をやめても甲状腺の働きが正常に保たれている状態を「寛解(かんかい)」といいます。一定期間治療を続け、少量の薬で甲状腺機能が安定した方では、薬の中止を検討します。ただし、中止後に再発することもあるため、定期的な血液検査で経過を確認することがすすめられています。詳しくはバセドウ病の薬をやめる目安と中止後の経過をご覧ください。
動悸や汗、手のふるえはいつおさまりますか
抗甲状腺薬が効いてくると、多くの場合1〜2か月でおさまってきます。それまでの間、症状がつらいときには、脈をゆっくりにする薬(β遮断薬)を一時的に併用することがあります。
バセドウ病に似た病気はありますか
甲状腺ホルモンが高くなる病気には、ほかに無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎、プランマー病があります。無痛性甲状腺炎は自然に回復することが多く、抗甲状腺薬は使いません。治療方針がまったく異なるため、最初の見極めが大切です。
目が出てくる症状は、必ず起こりますか
いいえ。甲状腺眼症は、軽い変化まで含めるとバセドウ病の25〜50%にみられますが、多くは軽症です。眼球突出などのはっきりした症状が出る方は、その一部です。活動期には炎症を抑える治療を行い、炎症が落ち着いた後に眼球突出や複視などが残る場合には手術を検討することがあります。
受診について
次のような場合は、甲状腺を診療している医療機関へご相談ください。
- 動悸、手のふるえ、汗が多い、体重減少などの症状が続いている
- 健康診断や血液検査で、甲状腺機能検査(TSH・FT4など)の異常を指摘された
- バセドウ病の治療中で、転居などにより通院先を探している
- 家族にバセドウ病など甲状腺の病気の方がいる
当院では、初診時に問診と診察を行い、必要に応じて当日に血液検査と超音波検査を行います。血液検査は採血後約1時間で結果をご説明できるため、結果を聞くために再度ご来院いただく必要はありません。アイソトープ治療や手術が必要と判断される場合は、隈病院をご紹介しています。
出典
- 日本甲状腺学会「バセドウ病治療ガイドライン2019」(南江堂)
- 大江秀美.バセドウ病に対する抗甲状腺薬と無機ヨウ素の併用療法の有効性.日本内科学会雑誌 2024;113(4):614-620
- 古川安志.甲状腺クリーゼの診断と治療.日本内科学会雑誌 2024;113(4):621-627
- 廣松雄治.バセドウ眼症の診断と治療.日本内科学会雑誌 2024;113(4):628-634
- 日本甲状腺学会・日本内分泌学会 臨床重要課題「バセドウ病悪性眼球突出症(甲状腺眼症)の診断基準と治療指針2023(第3次案)」
- 日本甲状腺学会「これから妊娠されるバセドウ病の患者さんへ」
