橋本病について
橋本病について、はじめに知っておいていただきたい点は次の3つです。
- 橋本病(慢性甲状腺炎)は、自己免疫の異常で甲状腺に炎症が起こる病気で、女性に多くみられます
- 橋本病と診断されても、甲状腺機能低下症になるのは約1割で、多くの方は甲状腺ホルモン剤を必要としません
- 症状だけではほかの体調不良と見分けがつかないため、甲状腺の働きはTSH・FT4で、橋本病かどうかは自己抗体などで確認します
橋本病(慢性甲状腺炎)とは
橋本病は、自己免疫の異常によって甲状腺に慢性的な炎症が起こる病気です。正式には慢性甲状腺炎といいます。甲状腺に対する自己抗体(抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体:TPOAb、抗サイログロブリン抗体:TgAb)が多くの方で陽性となり、診断の手がかりになります。ただし、自己抗体が陰性の方もいます。
炎症に伴って甲状腺の組織は少しずつ変化しますが、甲状腺の働きが保たれる方も多く、全員が甲状腺機能低下症になるわけではありません。日本甲状腺学会の診断ガイドラインでは、橋本病のうち甲状腺機能低下症になるのは約1割とされています。
一方で、甲状腺の働きが低下する病気の原因として最も多いのが橋本病です。そのため、甲状腺機能低下症が見つかったときは、まず橋本病かどうかを調べます。
1912年に日本人の橋本策(はしもと・はかる)医師が初めて報告したことから、この名前で呼ばれています。
甲状腺の働きが低下した状態そのものと、その原因の見分け方は甲状腺機能低下症にまとめています。
橋本病は何科を受診すればよいか
橋本病の主な相談先は、内分泌内科・甲状腺内科です。お近くにこれらの診療科がない場合は、一般内科でも甲状腺ホルモンの血液検査による初期の評価を受けられることがあります。症状やきっかけごとの受診先は、甲状腺は何科?症状・きっかけ別の受診先にまとめています。
橋本病に伴って甲状腺機能が低下したときに現れる症状は、疲れやすさ、むくみ、気分の落ち込みなど、ほかの体調不良と見分けのつきにくいものが中心です。更年期に伴う変化、貧血、睡眠の問題、うつ病などとも重なります。
そのため、症状だけで橋本病や甲状腺機能低下症を判断することはできません。問診・診察と血液検査を組み合わせ、必要に応じて超音波検査も行って判断します。
首の腫れやしこりが気になる場合は、甲状腺内科のほか、甲状腺の診療に対応している耳鼻咽喉科・頭頸部外科・内分泌外科でも相談できます。対応できる検査は医療機関によって異なるため、ご予約の前に確認されることをおすすめします。
症状
甲状腺の働きが保たれていれば、症状はほとんどありません。首の前面が腫れてくることがありますが、痛みはなく、ご本人が気づかないことも少なくありません。
甲状腺ホルモンが不足してくると、次のような症状が少しずつ現れます。
- 疲れやすい、だるい、やる気が出ない
- 寒がりになる
- 顔や手足がむくむ、体重が増える
- 便秘になる
- 皮膚が乾燥する、髪が抜けやすくなる
- 眠気が強くなる、物忘れが増える、気分が落ち込む
- 声がかすれる、動作がゆっくりになる
- 月経が乱れる
これらの症状はゆっくり進むため、本人も周囲も気づきにくいという特徴があります。気分の落ち込みや物忘れから、うつ病や認知症と見分けにくいことがあります。
ただし、自己抗体が陽性でも、TSHとFT4が正常であれば、これらの症状が甲状腺機能の異常によるとは限りません。甲状腺の働きが正常なのに症状が続く場合は、貧血、睡眠の問題、更年期に伴う変化など、ほかの原因もあわせて確認します。
だるさや疲れやすさから甲状腺の不調を心配して受診される方は少なくありません。どのようなときに甲状腺の検査を考えるかはだるい・疲れやすいのは甲状腺?にまとめています。
原因
免疫が関係していると考えられています。体の中に甲状腺に対する抗体ができ、リンパ球が甲状腺をゆっくりこわしていきます。ただし、なぜ自分の甲状腺を攻撃する抗体ができてしまうのかは、はっきりわかっていません。
この変化がどこまで進むかは方によって異なります。甲状腺の働きが保たれたまま経過する方も多くいます。
特徴
女性に多く、成人女性の3%以上にみられます。また、橋本病でみられる自己抗体は、一般の方の約15%にも見つかります。ただし抗体を持っているからといって、全員に甲状腺機能低下症が起こるわけではありません。
診断
血液検査では、甲状腺刺激ホルモン(TSH)と甲状腺ホルモン(FT4)を中心に甲状腺の働きを確認し、必要に応じてFT3も測定します。あわせて、甲状腺に対する自己抗体(TPOAb、TgAb)を調べます。
超音波検査(エコー)は、甲状腺の大きさや内部の状態、結節の有無など、形を確認する必要がある場合に行います。痛みはなく、所要時間は約15分です。
TSHとFT4が正常でも、TPOAbまたはTgAbが陽性であれば、橋本病の疑いがあると判断します。ただし、自己抗体が陽性というだけで薬が必要になるわけではありません。
自己抗体が陰性でも、甲状腺そのものが原因と考えられ、ほかに原因の見当たらない甲状腺機能低下症では、橋本病が疑われます。また、超音波検査で甲状腺の内部が通常より黒っぽく、まだらに見えること(エコー低下や不均質)も、診断の手がかりになります。バセドウ病など、ほかの甲状腺の病気と区別することも必要です。
抗体が陽性と言われた方はTPO抗体・サイログロブリン抗体を指摘されたら、陰性と言われた方は抗体が陰性でも甲状腺の病気のことがありますをご覧ください。抗体そのものの意味と数値の読み方はTPO抗体・Tg抗体とはで説明しています。
治療
治療が必要かどうかは、自己抗体の高さではなく、TSHとFT4を中心とした甲状腺の働き、症状、年齢、妊娠の予定などから判断します。
TSH・FT4がいずれも正常の場合
甲状腺ホルモン剤は必要ありません。時間の経過とともに機能が低下してくることがあるため、定期的な血液検査で確認を続けます。
TSHが高く、FT4は正常の場合
潜在性甲状腺機能低下症と呼ばれる状態です。すべての方がすぐに治療を必要とするわけではありません。TSHの上昇が続いているか、症状の有無、年齢、心臓の病気、妊娠の予定などを確認して、治療するか経過をみるかを決めます。
TSHが高く、FT4が低い場合
甲状腺機能低下症として、甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)で不足しているホルモンを補います。薬を始めたあとや量を変えたあとは、薬の効果をTSHで評価できるまで6〜8週間ほどかかります。血液検査を行いながら調整するため、適切な量が決まるまでに2か月以上かかることもあります。
高齢の方や、狭心症・心筋梗塞などの心臓の病気がある方では、心臓への負担を避けるため、最初から必要な量を投与せず、少量から始めて血液検査を見ながら慎重に増やします。
甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)について
甲状腺ホルモン剤は、体が本来つくっているものと同じ成分です。適切な量であれば、通常は安全に飲み続けられます。ただし量が多すぎると、動悸、手のふるえ、汗をかきやすい、寝つきが悪いといった症状が現れることがあります。定期的に血液検査を行い、その方に合った量に調整します。
鉄剤やカルシウム剤、一部の胃薬などは、甲状腺ホルモン剤の吸収を妨げることがあります。服用している薬やサプリメントがある場合は、受診のときにお知らせください。服用の時間をあける必要がある場合は、医師または薬剤師からご説明します。
甲状腺ホルモン剤は体内に長くとどまる薬で、血液中の半減期は約1週間あります。そのため、1回飲み忘れたことで甲状腺の働きが急に悪くなることは通常ありません。ただし、何日も続けて飲み忘れると、甲状腺の働きに影響することがあります。飲む量や飲み方は自己判断で変えず、できるだけ毎日同じ条件で服用してください。
注意が必要なのは、重い甲状腺機能低下症を長期間治療せずにいた場合や、必要な甲状腺ホルモン剤を長期間中断した場合です。そこに感染症や強い寒さなどが重なると、まれに粘液水腫性昏睡という緊急の状態を起こすことがあります。発症頻度は年間100万人に約1人と非常にまれで、1回や2回の飲み忘れで起こるものではありません。ただし、処方された薬を自己判断で長期間中止することは避け、続けにくい事情がある場合はご相談ください。
ヨウ素の摂りすぎによる甲状腺機能の低下
ヨウ素を摂りすぎると、一時的に甲状腺の働きが低下することがあります。ヨウ素は昆布、わかめ、ひじき、のりなどの海藻類のほか、うがい薬やのどスプレー、サプリメント、CT検査などで使うヨウ素を含む造影剤にも含まれています。
ヨウ素の摂りすぎが原因として疑われる場合は、医師の指示のもとで、2週間程度ヨウ素の多い食品や製品を控え、そのあとに血液検査で確認します。この状態は一時的なもので、制限するだけで甲状腺の働きが戻ることもあります。
橋本病があるという理由だけで、海藻類をすべて控える必要はありません。普段の食事や、昆布だし・昆布加工品、サプリメント、うがい薬の使用状況を確認したうえで判断します。
制限が要る人と要らない人の線引きはヨウ素と甲状腺|制限が要る人、要らない人でまとめています。
経過をみるという判断
橋本病と診断されても、甲状腺の働きが正常であれば、多くの方はそのまま普通に生活できます。ただし、時間の経過とともに機能が低下してくることもあるため、定期的な血液検査で確認を続けます。
定期的に検査を受けることは、「何もしていない」ということではありません。変化を早く見つけるための経過観察です。
妊娠を希望される方・妊娠中の方へ
妊娠を希望されている方や妊娠中の方では、一般の成人とは異なる基準で甲状腺の働きを評価します。妊娠前、または妊娠がわかった早い時期にTSHとFT4を確認し、潜在性甲状腺機能低下症がある場合には、TSHの値、自己抗体、不妊治療の有無などをふまえて治療を検討します。
すでに甲状腺ホルモン剤を服用している方は、妊娠に伴って必要な量が変わることがあります。妊娠がわかったら自己判断で量を変えず、早めにご相談ください。妊娠中の管理については妊娠と甲状腺で説明しています。
経過中に起こることがある変化
橋本病の経過中に、無痛性甲状腺炎を発症することがあります。甲状腺に蓄えられていたホルモンが血液中に漏れ出し、血液中の甲状腺ホルモンが一時的に増えることで、動悸がする、汗をかきやすい、体重が減るなどの症状が現れます。
血液中の甲状腺ホルモンが多い時期は通常3か月以内に自然に改善しますが、その後、一時的に甲状腺機能低下症になることが多く、少数の方ではそのまま機能低下が続きます。症状が落ち着いたあとも、血液検査で経過を確認します。
甲状腺リンパ腫自体はまれな病気ですが、そのほとんどは橋本病を背景として発生します。甲状腺が短期間で急に大きくなる、硬くなる、声がかすれる、飲み込みにくい、息苦しいといった変化がある場合は、早めに受診してください。
よくあるご質問
橋本病と言われたら、一生薬を飲み続けるのですか
甲状腺の働きが正常であれば、甲状腺ホルモン剤は必要ありません。甲状腺機能低下症になって薬を始めた場合は長期にわたって服用することが多い一方、ヨウ素の摂りすぎなど一時的な原因による機能低下では、中止できることもあります。薬を中止できるかどうかは、血液検査の結果を確認して医師が判断します。
抗体の値が高いほど、橋本病は重いのでしょうか
抗体の高さだけで、甲状腺機能低下症の程度や治療の必要性が決まるわけではありません。治療が必要かどうかは、主にTSHとFT4、症状、妊娠の予定などから判断します。診断がついたあとに抗体の値を繰り返し測るよりも、甲状腺の働きの変化を確認することが大切です。
健康診断で橋本病の疑いと言われました。何科を受診すればよいですか
内分泌内科・甲状腺内科が主な相談先です。お近くにない場合は、一般内科でも甲状腺ホルモンの血液検査を受けられることがあります。健診の結果をお持ちいただくと、経過の確認がしやすくなります。ほかの症状やきっかけでの受診先は、甲状腺は何科?をご覧ください。
妊娠を考えていますが、大丈夫でしょうか
橋本病があっても、多くの方は妊娠・出産ができます。ただし妊娠前や妊娠初期には甲状腺の働きを確認し、必要に応じて治療や薬の量を調整します。妊娠を希望される段階からご相談ください。詳しくは妊娠と甲状腺をご覧ください。
薬を飲み忘れてしまいました
1回飲み忘れたことで、甲状腺の働きが急に悪くなることは通常ありません。飲み忘れに気づいたときの対応は、次に飲む時刻までの間隔などによって異なるため、処方時に受けた指示に従ってください。自己判断で2回分をまとめて飲まないでください。何日も続けて飲み忘れた場合や、妊娠中の場合は、処方した医療機関へご相談ください。
受診について
次のような場合は、甲状腺を診療している医療機関へご相談ください。
- 健康診断や血液検査で甲状腺の異常を指摘された
- 首の腫れに気づいた
- 疲れやすい、だるい、むくみなどの症状が続いている
- 家族に甲状腺の病気の方がいる
当院では、初診時に問診と診察を行い、必要に応じて当日に血液検査と超音波検査を行います。血液検査は採血後約1時間で結果をご説明できるため、結果を聞くために再度ご来院いただく必要はありません。結節の精密検査(穿刺吸引細胞診)や手術が必要と判断される場合は、隈病院をご紹介しています。
甲状腺の病気は内分泌内科・甲状腺内科で診ますが、どこにかかればよいか迷われることがあります。甲状腺の不調は何科を受診すればよいかで説明しています。
出典
- 日本甲状腺学会「甲状腺疾患診断ガイドライン2024」(2024年11月21日改定)
- 日本甲状腺学会臨床重要課題「潜在性甲状腺機能異常症の診断と治療の手引き(妊娠編)」(2025年5月27日)
- 大野洋介、佐野あずさ、田中祐司.甲状腺機能低下症と甲状腺粘液水腫性昏睡.日本内科学会雑誌 2024;113(4):641-647
- 医薬品医療機器総合機構「チラーヂンS錠 添付文書」
