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甲状腺がんの術後について

甲状腺がんの手術後の管理では何をするのか

このページでは、主に乳頭がん・濾胞がんなどの分化型甲状腺がんの手術後の管理について説明します。髄様がんや未分化がんなどでは、用いる腫瘍マーカーや検査の内容が異なります。

甲状腺がんの手術を受けた後は、甲状腺のはたらきと再発の有無を確認するため、長期にわたって定期的な受診が必要になります。主な内容は、甲状腺ホルモン剤の調整、血液検査、頸部の超音波検査です。病理の結果や再発のリスク、これまでの検査結果によっては、CTなどの画像検査を追加することがあります。

全摘術と葉切除術で管理が変わります

甲状腺をすべて摘出したか(全摘術)、片側だけを摘出したか(葉切除術)によって、その後の管理は大きく変わります。ご自身がどちらの手術を受けたかは、手術を受けた病院で説明を受けているはずです。

  全摘術 葉切除術(片側)
甲状腺ホルモン剤 原則として生涯にわたって必要 不要な方もいるが、必要になる方もいる
TSHの目標 再発のリスクに応じて調整する TSHを抑える治療は行わない
サイログロブリン 再発を判断する手がかりになる 全摘後に比べると価値はかなり低い

以下では、それぞれについて詳しく説明します。

甲状腺ホルモン剤が必要になる理由

甲状腺は甲状腺ホルモンをつくる臓器です。すべて摘出した場合、体内で必要な量をつくることができなくなるため、甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)を原則として生涯にわたって飲み続けます。

片側だけを摘出した場合は、残った甲状腺がホルモンをつくるため、薬が不要な方もいます。ただし全摘以外の術式でも、一定の割合で甲状腺ホルモン剤による補充が必要になります。

甲状腺ホルモン剤は、体が本来つくっているものと同じ成分です。適切な量を飲んでいれば、副作用はほとんどありません。ただし量が多すぎると、動悸、手のふるえ、汗をかきやすい、寝つきが悪いといった症状が現れることがあります。定期的に血液検査を行い、量を調整します。

鉄剤やカルシウム剤、一部の胃薬などは、甲状腺ホルモン剤の吸収を妨げることがあります。服用している薬やサプリメントがある場合は、受診のときにお知らせください。

TSHをどのくらいに保つか

甲状腺ホルモン剤の量は、血液検査のTSH(甲状腺刺激ホルモン)を中心に、FT4の値や自覚症状、年齢、心臓や骨の状態も確認しながら決めます。がんの手術後は、再発のリスクに応じてTSHを通常より低めに保つことがあります。これをTSH抑制療法といいます。

ただし、TSHは低ければ低いほどよいというものではありません。日本内分泌外科学会の「甲状腺腫瘍診療ガイドライン2024」では、次のように整理されています。

  • 葉切除術の後:TSHを抑える臨床的意義は乏しく、行うべきではない
  • 再発リスクが低い方の全摘後:TSHを抑えても予後の改善には貢献しない。ただしFT3を正常範囲に保つために、TSHを正常の下限あたり、またはごく軽度に抑える意義はあると考えられる
  • 再発リスクが高い方の全摘後:転移や再発を抑えるためにTSHを抑えることが勧められる。ただし測定できないほど下げることは、予後を改善しないばかりか有害事象を招くため行うべきではない
  • 中リスクの方の全摘後:手術中の所見や病理の所見、年齢や全身の状態をふまえて個別に決める

TSHを抑えることによる有害事象としては、骨粗鬆症と心臓・血管の病気が挙げられています。TSHの目標は一度決めたら変わらないものではなく、検査の結果や手術からの年数をみながら見直します。自己判断で薬の量を変えたり中止したりせず、血液検査を受けながら調整してください。

サイログロブリンという検査

サイログロブリン(Tg)は甲状腺の細胞がつくるたんぱく質です。乳頭がん・濾胞がんでは、手術後の再発を確認する腫瘍マーカーとして用います。知っておいていただきたい点が3つあります。

1回の値より、変化の仕方が大切です
大切なのは単回の値よりも、定期的に測定して経時的な変化を追うことです。すべて摘出した後でも、反回神経の入口付近などにごくわずかな正常の甲状腺が残っていて、サイログロブリンが測定されることがあります。少し高いというだけで再発と決まるわけではありません。

抗サイログロブリン抗体(TgAb)と一緒に測ります
TgAbが陽性の方では、サイログロブリンの腫瘍マーカーとしての価値が低くなります。そのため両方を同時に測り、それぞれの変化をあわせてみていきます。TgAb自体が増えているか減っているかも、経過を判断する手がかりになります。

葉切除術の後では意味が異なります
残っている甲状腺がサイログロブリンをつくるため、すべて摘出した場合に比べて、腫瘍マーカーとしての価値はかなり低くなります。値が高くても再発とは限りません。ただし数値が続けて上昇する場合は、追加の検査を検討する手がかりになります。

頸部の超音波検査

乳頭がん・濾胞がんの多くは経過が良好ですが、首のリンパ節や甲状腺のあった場所に再発することがあります。超音波検査で、これらの部分に変化がないかを確認します。痛みはなく、所要時間は約15分です。

検査の間隔は、手術からの年数、再発のリスク、サイログロブリンや抗サイログロブリン抗体の値、これまでの超音波の所見によって異なります。手術後まもない時期はより短い間隔で行うことがあり、年数が経って安定している方では年に1回程度となることが多くなっています。

手術の影響で残ることがあるもの

声のかすれ・出しにくさ
手術の直後は、気管に管を入れたことや喉の腫れなどによって、一時的に声がかすれることがあります。すべてが声帯を動かす神経の影響によるものではありません。自覚症状の大部分は数日以内に回復しますが、神経に影響が及んだ場合は、回復までの期間に数週間から半年以上までの大きな差があります。声のかすれが続く場合や、飲み物でむせる場合は、耳鼻咽喉科で声帯の動きを確認していただくことがあります。

手指や口のまわりのしびれ
この症状は主に全摘術やリンパ節の郭清を受けた方にみられ、葉切除術だけの場合に起こることはまれです。甲状腺の近くには副甲状腺という小さな臓器があり、血液中のカルシウムを調節しています。手術の影響でこのはたらきが弱くなると、血液中のカルシウムが下がり、手指や口のまわりのしびれ、筋肉のつりなどが現れることがあります。多くは一過性で、点滴や内服で対応できます。続く場合は、血液中のカルシウムや副甲状腺ホルモンを確認しながら、カルシウム剤や活性型ビタミンD3の内服で調整します。

首のつっぱり・傷あとの硬さ
手術の後1〜2か月は、傷のまわりに軽度の腫れがみられたり、場合により硬いしこりを形成したりすることがあります。多くは時間とともに徐々に軽くなります。傷の赤みや熱感が強くなる、痛みが増すといった場合は、手術を受けた医療機関にご相談ください。

首が急に腫れる、息が苦しい、しびれが急に強くなる、筋肉がけいれんするといった場合は、手術を受けた医療機関に速やかにご連絡ください。呼吸が苦しいときは救急受診が必要です。

通院はいつまで続けるのか

術後の通院について、すべての方が一律に何年で終了するという基準はありません。

日本臨床外科学会の一般向けの解説では、術後いつまで通院が必要かという問題に対する答えはないとしたうえで、術後15年以上の経過観察が必要とする意見が専門医の間で大半を占める、とされています。

ここで、目的の違う2つの通院があることに注意してください。ひとつは再発を確認するための通院で、もうひとつは甲状腺ホルモン剤の処方と量の調整のための通院です。甲状腺をすべて摘出して薬を続けている方は、再発の検査の間隔が長くなった後も、血液検査と処方のための受診が必要です。

実際の間隔は状態によりますが、手術から年数が経って安定している方では、年に1回程度の受診となることが多くなっています。

通院先について

手術を受けた病院が遠い、通院の回数を減らしたいといった理由で、通院先を考え直す方がいます。通院先を移すか、手術を受けた病院と並行して通うかは、手術からの年数や再発のリスクによって考え方が変わります。手術から日が浅い方や、画像検査による評価が続いている方では、手術を受けた病院での受診を続けながら、日常的な血液検査や薬の調整を近くの医療機関で行う形もあります。

当院では、他院で手術を受けた方の術後の管理も行っています。甲状腺ホルモン・サイログロブリン・抗サイログロブリン抗体は院内で測定でき、採血後約1時間で結果をご説明します。

受診の際は、もしお持ちでしたら、手術の記録、病理検査の結果、これまでの血液検査や画像検査の結果、現在お飲みの薬がわかるものをお持ちください。お持ちでない場合でも受診いただけますが、再発のリスクや今後の検査の計画を判断するため、受診後に手術を受けた医療機関へ診療情報の提供をお願いすることがあります。

再発が疑われる場合や、放射性ヨウ素を用いた治療が必要と判断される場合は、隈病院などの専門医療機関にご紹介します。

出典

このページの執筆者

窪田純久(くぼたクリニック院長・医学博士/日本甲状腺学会認定甲状腺専門医・評議員)
窪田創大(医師・医学博士/日本甲状腺学会認定甲状腺専門医、日本内分泌学会専門医・指導医、日本糖尿病学会専門医)

院長・窪田純久は、甲状腺を専門としない医師に向けた専門書『やさしく解説 甲状腺疾患の診断と治療』(南江堂、改訂第2版・2025年)の著者です。日本甲状腺学会において、バセドウ病薬物治療・バセドウ病眼症診療・甲状腺結節診療・潜在性甲状腺機能低下症の各診療ガイドライン作成委員を務めています。

  • 執筆した医師の経歴などがある医師紹介はこちら
  • 院長自身による日本語の解説をつけた英文論文18編はこちら

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